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Classroom

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「何でこんな所で…?」
 鎖骨に薄い唇を押し付けられた瞬間に、眼鏡の奥の目を微かに細めながら、嵐士は年下の恋人に聞いた。 教壇に凭れかからせられるように押し付けられ、ワイシャツの第3ボタンまで外された挙句に、両足は既に割開かれて、長い指先がベルトのバックルを外そうと動いている。
 嵐士の問いかけに下げられていた頭が上がった。
 一重の切れの長い目が悪戯な光を放つ。
「燃えない?」
「―――そんな訳がない」
「何で?」
 きっぱりと否定する嵐士に対して、軽く首を傾げる。
「だって、沙玖羅君、君…」
「教室だよね、先生」
 小さく彼が嵐士の耳元で呟く。
 ここは彼自身が受け持っているクラスの教室。
 いくら今は誰もいないとは言っても、このような行為を行っていい場所では当然ながらない。
「判ってんなら…」
「昔もヤったじゃん」
「あの時は、君が…っ」
「ガキだったからな」
 過去のことを持ち出されて、嵐士は目を眇めた。
 思い出す過去の出来事。
 それは何年かぶりに再会していきなりのことだった。
 教師となって副担任として配属されたクラスに、沙玖羅がいた。
 彼の兄である人と嵐士は中学、高校と同級生で、その頃まだ小学生であった沙玖羅の面倒も時々見ていた。多忙きわまりない両親たちは自宅を不在がちであったし、兄と沙玖羅の間に何人かいる兄弟姉妹たちも部活であったり、バイトや個人的な活動に勤しんでいて、1番年下であった沙玖羅の面倒を殆ど誰も見ていなかったからでもある。そのせいか、沙玖羅という人間は極端に人を避ける傾向にあり、唯一懐いていたのが嵐士だけであったと言える。そのこともあって、嵐士も沙玖羅のことは自分の弟のように可愛がっていたが、ある事情がって、嵐士は沙玖羅と別れなければならなくなった。
 それから数年の後、その頃よりも格段に成長した沙玖羅の姿がそこにはあった。
 4月の初めに誕生日を迎えた沙玖羅は十六歳になったばかりであったはずだが、周りの生徒たちよりも酷く大人びた印象を受けた。それは唐突に姿を消してしまったことに対する彼への罪悪感の賜物であったかもしれないし、唯一の拠り所である嵐士がいなくなってしまったことで、彼を急激に成長させてしまった故であるのかもしれない。
 冷たい眼差しを向ける彼が、嵐士にはあの頃とは別人のようにすら思えた。
 が、入学式を終えた2週間後のある日、それはまさに『嵐』のようにやって来た。
 放課後翌日の授業の準備に遅くまで残っていた嵐士の元を訪れたかと思うと、いきなり犯されたのだ。
 感情も何もないその行為に嵐士は苦痛以外の何も感じなかったが、その後でぶつけられた感情に奥底にしまっていたはずの沙玖羅への感情が引っ張り出されてしまったのも詮無いことで。
 それから色々とありはしたものの、今はお互いなくてはならない存在にまでなっていた。
「今でもガキだ」
 そんな風に嵐士が言えるのも、冗談を言える仲にまでなっているからだった。
 が、実際、あの頃よりも今の彼の方がそんな風に見えてしまうことが少なからずあった。今の方が素直に感情を出してくるし、何よりも甘えられることも少なくない。
「ああ、そういうこと言うんだ」
「あ、いや、だから……っ!」
 怒らせてしまったのか、開かれたシャツの間にするりと両手が入ってきて脱がせようとするのに、慌てて嵐士はその手を止める。
「ちょ、ちょっと、ま…っ」
「ガキだから、我慢が効かない」
 首筋に噛み付くように歯を立てられて、嵐士の身体が跳ねる。
「だ、誰か来たら、どうするんだっ」
「さあ?」
「さあって…!」
 首を捻る沙玖羅の、整い過ぎた顔を押し退けようと試みるものの、半分脱がされかけたシャツが邪魔になってしまって、うまいこといかない。
「こんな時間に誰も来ねぇだろ。外では後夜祭やってるし…」
 沙玖羅の視線が窓の向こう側に向けられた。
 嵐士の勤める幼稚園から大学院までの一貫教育が行われているこの学園では、一昨日から今日にかけて文化祭が行われていた。幼稚園から大学院までがいっせいに行っているから規模たるや相当のものであり、近隣の住民は当然のこと、県外からも大勢の客たちが訪れる。その為、一般の客も参加可能な後夜祭も賑やかなものだ。人々の歓声が風に乗って、この教室にまで流れてくる。
「君目当ての女の子たちが探し回ってるかもしれないだろ」
 本日の文化祭の目玉が何と言っても、この目の前の彼がボーカルを務めているバンドのライブのバンドだった。Mendelevium(メンデレヴィウム)という元素の名前がついたそのバンドは今や日本中で人気絶頂であり、通常のライブではファンクラブメンバーでさえ中々チケットが取れないというプラチナムなものにまでなっている。その彼らのライブが通常の半分以下の値段で、しかも学園の文化祭などで見れるとなっては、大勢の人間が集まらないはずはなかった。
 特にボーカルである彼は低音から高音を難なく操り、見事なテクニックで歌い上げる上に、日本人離れのその美貌が多くの女性を虜にし、今日もライブの行われた体育館の四分の三は女性たちで埋め尽くされていた。当然彼女たちはライブが終わった後も、彼らが出てくるのを待って、体育館の裏に陣取っていたのを、嵐士も目にしていた。
「平気。帰ったことになってるしさ」
「帰ったことって…」
 現に今沙玖羅はこうして嵐士の前にいるのに、どうすれば帰ったことに出来るのか。
「俺らのマネージャー優秀だしね」
 確かにあのマネージャーは相当優秀だ。嵐士も何度も会ったことがあるが、その度にその手腕には目を剥くほどだ。実力があってこそでもあるが、彼らの人気はあのマネージャーがいてこそ、とも言えるだろう。その彼ならば、沙玖羅の言葉通り、それくらいのことはしてのけるかもしれない。
「………」
「何?」
「いや…」
 黙り込んでしまった嵐士を不思議そうな表情で見下ろしてくるのに、目を合わせて嵐士は首を振る。
「こんなトコでしなくてもって思ってるんだろ?」
 先ほどと同じような問答が始まるのに、嵐は首を縦に振る。
「ああ。家に帰れば、幾らでも…」
 自分たちは一緒に住んでいるわけだし、防音もしっかりとしているあのマンションであれば、鍵をかけてしまえば外界とも隔たれるし、彼だってこんなに抵抗の意を示すことはしない。そもそも、本当は抵抗などしたくないのだ。彼との濃密な時間を厭うどころか、欲しがっている自分がいることを嵐士はきちんと知っている。
「だから、燃えるだろ、スリルあって」
 クスクスと笑う声が聞こえてくる。
「もうこんなになってるしさ、先生?」
 膝頭で股間がゆっくりと撫でられるのに、嵐士は息をつめた。確かに、そこは既に硬くなりつつあって、これから起こるであろう行為を期待して、ドクドクと脈打ち始めている。
「もう、それで、呼ぶのはやめてくれ。悪いことしてる気分になってくるし、俺はもう君の先生じゃない」
 昔は兎も角、もう今は彼の先生という立場にはない。
「んじゃあ、嵐士さん…?」
「……ん…」
 耳元でよく響く低音に囁かれられて、ヒクリ、と喉が上がる。
 この低音が好きだ。
作品名:Classroom 作家名:かいや