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このホテリアにこの銃を (下)

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17 声なき声



あっという間に
抱かれてた

「君の前から
消えさえすれば
気がすむのか」と

声にならない
声振り絞って
思わず弱音を
吐いたあのとき

僕の半身が
この世にいるなら
君しかいないと
いつしか
思い定めて以来
初めて
絶望しかけた
あのとき

あっという間に
抱かれてた

「罪もない
ホテリア達を
100人も

ある日突然
解雇だなんて
むごすぎる

あなたは今に
罰を受ける」と

僕を睨んで
脅した君に
抱かれてた

虫唾が走ると
逃げ出すかとさえ
恐れてたのに

君に抱かれた
ことが不思議で
面食らって
どうしていいか
一瞬迷った

肩の向こうで
小さく聞こえた
君の吐息が
少なくとも
夢ではないと
僕に教えてくれたけど

呆れてるのか
憐れんでるのか

見当もつかないことが
もどかしくて
物言わぬ君の
華奢な体を
包み返した

そのくせ頭は
性懲りもなく

それでも何とか
してみせると
ホテルも君も
何が何でも
手に入れてやると

呪文のように
繰り返してた
果てしなく
独りよがりの
この狂信の徒の
狩人に

涙にくれた
声なき声など
聞こえてこよう
はずもなかった

-狩りをするのは
何のため?-

-意地や嫉妬や
プライドのため?-

-お願いだから
目を覚まして-と

聞く耳持たない
狩人の
傲慢きわまる
腕の中で
声なき声で
君は
叫んでいたらしい

-目を覚まして
人の心を
取り戻して-と

いつからか
ただそれだけを
一心に
僕に向かって
叫び続けた
声なき声

大いなる
独りよがりに
邁進中の
この阿呆には

間違ってもあのとき
聞こえてきては
くれなかった