このホテリアにこの銃を (下)
22 永遠に預ける
チケット1枚
握りしめて
制服姿の
ホテリアが1人
靴音高く
狂ったように
駆け込んできて
仁川(インチョン)の
出国ロビーが
ざわついたと
風の便りに聞いた
僕が発つのと
前後してたと
そう聞いた
僕にはそれで
充分だった
ジニョン
半身でいると
誓ってくれた
その君を
もし万が一にも
失うなら
僕にとって
それは即
我が身を半分
失うこと
犯しつづけた
傲岸不遜の
罪の重さを
心の底から
羞じたあの夜
幸運など
こんな僕には
未来永劫
許されまいと
心くじけて
自嘲した夜
「私たち
出逢ったじゃない?」
これ以上の幸運が
あるなら言ってと
言いたげに
言下に笑んだ
黒い瞳が
怯懦な僕への
計り知れない
慰謝であり
鼓舞であったと
君は知ってた?
うなだれる僕を
刮目させた
無垢で
怜悧で
強靭な君を
僕は決して
あきらめない
この世で出逢えた
たった1人の
半身だから
失えない
失いたくない
寄り添いながら
待ちつづけながら
言わず語らず
君が教えた
温かさ
僕の鎧を
難なく脱がせた
温かさ
今度は僕が
返す番
君が呆れて
もう結構と
いつか吹き出す
日が来ても
包んであげたい
温かく
包んであげたい
生涯 君を
だから
迷わなかった
ソウルを発つ朝
あのときすでに
決めてたこと
君が来るのが
叶わないなら
僕の方から
行くだけのこと
僕のところへ
君が来るのが
許されないなら
この僕が
君のところへ
行くだけのこと
それだけのこと
要は
-待てない方が負け-
古今東西
勝負の
普遍の法則らしい
してみれば
最初から最後まで
僕の負け
ロビーの
はるか彼方から
大きな瞳を
パチクリさせて
まっすぐ
僕に近づいてくる
もう泣きべその
ホテリアに
預けよう
人一倍
涙もろくて
掛け値なしに
有能で
そして何より
無条件に
信ずるに足る
このホテリアに
永遠に
僕の銃を
預ける
ジニョン
待たせたね
長い間
待たせすぎた
その代わり
これからはずっと
ここにいる
ずっと
君のそばにいる
<完>
作品名:このホテリアにこの銃を (下) 作家名:懐拳