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ろーたす・るとす
ろーたす・るとす
novelistID. 52985
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便利屋BIG-GUN 1 ルガーP08

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 当然俺は暴徒と化したファン達に追われることになった。
 その時フランス革命直前、暴徒から友を救うため高らかに名を名乗り暴徒を自分に引きつけたフランス王妃の恋人と自らを重ねてみたのだが、まあそんなにかっこよくはなかったか。
僕の弱点は正直すぎるところだッ!反省しなければッ!
ばっちーん。
ジュンの平手打ちが俺の頬を捕らえた。
さっきと同じように避けたのだが、こんにゃろう今回は一歩踏み込んできやがった。きちんと前回の失敗を踏まえてとっさに改良した技を放つとは…… こいつ、やはり只者ではないのでは。
それにしてもいくら胸の形に見とれていた(下着のせいかもしれませんが丸かったです)としても十分避けられる間合いだった。完全な油断だ。この辺りが親父や兄貴に「お前は素人だ」といわれ続ける所以なのだろう。
「こんな状況でいい加減セクハラやめなさいよ!」
さすがにご立腹のようですな…… でもどんな状況でもセクハラなんか許さんだろ、お前。
「んじゃ仕事しますか……」
俺は切符売り場で入場券を買いジュンにも渡した。
「なんで?」
「南口に行くんだ。ちと用事ができた」
「それだけなら入場券なんかいらないじゃない」
 これにはわけがある。この駅の北口と南口を移動するには300mも西側の踏切を渡らなければならない。しかもこの踏切が一度閉まると10分ぐらい平気で閉まっている開かずの踏み切りなのである。この街の南と北を分断する大きな問題点だ。さすがに歩道橋の建設が計画されているが、これができたところで600m以上の移動を余儀なくされるのは変わらない。そこで入場券だ。駅構内に入ってしまえばホームの連絡橋を使って数分で移動可能である。それでこの駅は全国でも入場券売り上げがトップクラスという妙な肩書きを持っている。鉄っちゃんにもちょっと人気だ。
 それなら…… とジュンは駅に入り軽やかに階段を上っていく。細い肩の上を長い髪がふわふわと歩調に合わせて揺れる。一歩下がってスカートの中をのぞくようなことはしてませんよ、念のため。
 連絡橋をわたり南口から出ると北口よりあからさまに寂れたロータリーが待ち構えている。空が見上げられる背の低い店が並ぶ駅前商店街だ。
 駅を出たらすぐ左にある小さなラーメン屋が俺の目的地だった。間口一間、カウンター席5人がけのみの小さな店だ。その小さな店先に置かれた椅子に意外な大物達が座っていた。俺が声をかけるとそこにいた3人は笑顔で迎えてくれた。
「ご無沙汰してます、鍵さん」
 一人は駅前の地主であり、ほかにも様々な物件、企業を持ちこの街の経済界のボスである鍵 敬三さん。うちの会社の元の地主さんと友人だったため知り合い、何かとお世話になっている。
 60を過ぎた方だが背が高く筋肉質の肉体を維持している中々精悍な人だ。
「やあ、風見君。今日は活躍だったそうだね」
「ははは、もう知ってましたか」
「あの事件のおかげで演説が中止になったものだから、ここで暇をつぶしてるのさ」
 嘘だ。その辺のご隠居ならともかくこの街のドンがこんなところで井戸端会議しているはずはない。しかも隣に座っているのはこの街随一の有名人だ。俺以上と言っていい。恰幅のよすぎるボディ、それに見合ったぽっちゃりフェイス。どこの会派にも属さないが若いころから地道に努力し庶民的で市民に愛され市長にまで駆け上がった男。
 鳥取 新平。市長とっとりくんの愛称で呼ばれる、この街のリーダーだ。
 政治には何も文句はないが、消防団の式の時どうにも不恰好な敬礼をしたのが印象に残っている。誰か教えてあげればよかったのに。
 この街の政治と経済のトップが駅前のラーメン屋の前で日向ぼっこしているのである。
 ちなみにもう一人は鍵さんの側近兼ボディーガードである黒澤さんだ。身長180cmのがっしりした肉体の上にオールバックのおっかない顔が乗っている。その辺のチンピラならにらまれただけでおしっこ漏らしちゃうほどの威圧感を持った男が二人の横に直立している。
「市長、彼をご存知ですか? 彼が最近話題のBIG-GUNの風見 健君です」
 鍵さんが市長に紹介してくれた。市長と顔見知りになっておくのは悪くない。
 市長は人懐っこい笑みを見せ立ち上がった。まん丸なおなかがぷるんと揺れる。
「ネットで話題の彼だね。今日銀行強盗を退治してくれた。でもこんなに若いとは思わなかったよ」
「市長、若くとも彼は便利屋を経営する社長です。行動力があり責任感もある立派な青年で私の大切な友人でもあります。どうかお見知りおきください」
 鍵さんにここまで褒められると少々照れる。
聞いていたかね、ジュンちゃん。
俺はどうぞよろしくと頭を下げた。
市長はこちらこそよろしく頼みますと握手してくれた。
「市長の票読みにでも来たんですか?」
 さっき署長も言っていた通りもうすぐ選挙なのだ。
「当たらずとも遠からず…… かな」
 鍵さんはダンディに苦笑した。
「心配しなくても市長の圧勝でしょ? 人気もあるし鍵さんも支持しているし」
「それがそうでもないんだよ」
 市長が苦しげに口を開いた。鍵さんが後を継いだ。
「最近犯罪が多くてね、なにかと支持率が下がってる。組織票も対立候補に入っているらしいんだが、どこの組織だかわからないんだ」
「政治は難しいんですね」
 国会ならニュースで情勢を聞けるが市の政治となると中々解らん。
「はは、君が気にすることじゃないさ。それよりこの店に用があるんだろ、入りたまえ」
「お二人は?」
「先に入りたまえ、かまわんよ。そこの可愛いガールフレンドを紹介してくれればね」
 うーむ…… そんなに俺が女連れだと変なのだろうか。
「セーノ・ジュンです。よろしく」
 今までと違った大人びた声でジュンは丁寧に頭を下げた。お嬢様の顔か。
「こいつはボディーガード中の客です。客には手を出さない主義で」
 俺のプロ意識溢れる発言も鍵さんはジョークと受け取ったのだろう。
「そんな下らんポリシー守るつもりじゃないだろうね」
 と、きた。
んー…… ノーコメントです。
「冗談はともかく入りたまえ。われわれの用件はもう済んでるんだ」
「そうですか、じゃあ」
と、入ろうかと思ったがジュンはどうしようかな。鍵さんが俺の考えを察してくれた。
「お嬢さんは外で待っていたほうがいいだろう。なに、君が出てくるまで黒澤がきちんとガードするよ。こう見えて自慢のガードでね」
 鍵さんはジュンにウインクした。鍵さんは端正な顔立ちだしこういう仕草も自然にこなす。その上威厳があってかっこいいのだ。
 そこにしびれる、憧れる。
ジュンは笑ってお願いしますと言い俺に手を振った。
 まあ、いいか。俺は礼を言って中に入りかけ、振り返って市長に言った。
「市長、俺地元だし応援してますよ。今回は投票できませんけど」
 市長はええ? と驚いたが、すぐに苦笑して言った。
「ああ、君未成年か」

 店内はさっき言った通り狭い。カウンターの向こうは調理場でエアコンもないので結構暑い。切り盛りしているのは老夫婦だ。じいさんは小柄で細身。ばあさんはその3倍はあろうかという堂々たるお姿だ。
「やあ風見ちゃん、今日は大活躍だね」