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飛空都市の八月
飛空都市の八月
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天使への遺言

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◆5



 天使<アンジェリーク>へ――



 そう書いただけで、手は止まったままだ。
 書こうとしているうちから思い出に浸りきり、いまだ何も書けないでいる。
 羽根ペン――これを書き終えたら共に添えて贈るつもりの羽根ペンを置く。



 天使<おまえ>への遺言と共に。



 それは、嘘のような朝だった。
 実に爽やかな目覚めだった。
 前日、ついに新宇宙への移行が行われ、おまえを新女王として迎えることが決まった。
 まさに、新しい御代への幕開けとなる佳き日。
 だから私の躰も、起き上がったとき軽く感じられた――そう、ありとあらゆる軛<くびき>となるもの一切合切、すべて取り払われたような気がして快かった。
 だが、次の瞬間。
 「あ」
 間の抜けた、妙な声をひとつだけ発して私は、ぱたり、と再び寝台へそのまま仰向けに倒れた。
 確かに軽くなったはずだ。
 それというのも私から、守護聖の首座だとか、女王陛下の両翼とかいう、それこそ『ありとあらゆる軛となるもの一切合切』、すべて剥がされてしまっていたのだ。
 何より重いもの――光のサクリアと呼ばれるもの――が消え失せてしまった。
 この、幸福な一晩のうちに。

作品名:天使への遺言 作家名:飛空都市の八月