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空腹とご飯

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空腹とご飯

 無性に何か食べたくなる深夜に記す--

 自慢じゃありませんが、私のお給金はそれなりです。それなりのお給金で毎日朝、昼、晩に量も質もそれなりのご飯を食べています。
 ある日、私は気が付きました。
 私、なんで朝、昼、晩にご飯を食べているのでしょう? ご飯はお腹が空いたら食べる物じゃないのですか? 私、そもそも朝も昼も晩もお腹をぐうぐうに空かせて食べた記憶がありません。
 私はきっと、私のお給金がそれなりであるせいだと思いました。お金があるから、慣習に則って何の疑問も持たずにそれなりのご飯を食べてきていたのです!
 私はそれなりのお給金に満足しています。それなりのお給金、万歳! でも、空腹じゃないのにご飯を食べること、これ、本当に必要なのでしょうか? というよりそもそも、空腹とはなんぞや? 私、分かりません。
 分からないので、実験です!
 朝が来ました。私の家にはセールでこっぴどく叩き売られない程度に質の高い食パンが常備されています。特別美味しくは無いのですが、少なくとも不味いと思ったことはありません。つまりそれなりの食パンです。私、これを敢えて食べませんでした。
 いつもはバターを塗って食べているんです。でも、それに必然性を感じたことは一度もありませんでした。だから寝坊した時なんかは食べないですね。でも食べない理由もありませんでしたので食べていました。しかしですね、今日は食べない理由があるんですよ。はい、実験です!
 職場に来ました。お仕事をします。所謂デスクワークです。それなりのお給金のために、今日も私なりに頑張ります。
 少し、お腹がすいた気がします。いや、違いますかね。何かを口に入れたいだけ、という感じがします。本当にこれは空腹なのでしょうか?
 わからないので、とりあえず無視してみました。お仕事お仕事です。バリバリ、バリバリ。
 お昼休みが来ました。いつもはご飯を売る店に入って行きます。なにせそれなりにお給金を貰っているもので、それなりの店でする外食なんて毎日だろうがどんと来いなのです。
 ですが今日は職場に残りました。先ほど来た空腹らしき何かは、気が付けば消えてしまっていたのです。ご飯を食べる必然性がなくなってしまったのです。なので残りました。
 先ほどの気持ちが本当に空腹なら、時間が経つにつれてどんどんお腹が空いてより辛く、よりご飯が食べたくなると思いませんか? でもそんなことはなかったのです。あれは空腹じゃありませんでした。偽物です。偽物だったのです!
 さて外食をしなかった私ですが、そもそもなぜいつも外食をするのかと言えばこれはお店の味を楽しむためなのです。お店の味、いい響きですね。特別な感じがしますよね。
 でも、これって絶対なくちゃいけないですか? 私、空腹で死にそうなんてことにはなっていないんです。食べる必要ないじゃないですか。お店の味、嗜好品なんですね。なので、食べませんでした。
 それにしても、食べないことって意外と簡単です。なにせ何もしなければ達成できてしまいます。トースト焼いたりお店に行ったり動くことよりずっと簡単ですよ。「安きに流れる」と言いますし、私が簡単だよっていろいろな人に教えたら絶食が流行するかもしれません。
 ぶっちゃけこの楽ーな感じ、私大好きです。空腹にならない、食べる事に必然性がないのなら、ひょっとして絶食するほうがいいのではないでしょうか?
 夜が来ました。仕事、おしまいです。家に帰って来ました。今日も一日がんばりましたよ。だからといって誰も褒めてくれる相手はいませんが、ご飯がおいしく作れると何かに褒められた気分になります。
 でもこれも嗜好品なのです。なくてもいいんです。むしろご飯を作らないと楽ちんで、しかも私は楽ちんを嗜好するのです。なので無くしてしまいました。今晩はご飯抜きですよ。空腹云々とかもうどうでもいいです。そんなの無いわけですし。ビバ、楽ちん。
 深夜に目が覚めました。お腹は空いていません。お腹の中には恐怖だけが渦巻いていました。
 このまま空腹が来なかったら私はご飯を食べないでしょう。しかし私は知っています。人間はご飯を食べないと餓死するのです。実際に見たことはありませんよ餓死者なんて。でも知っているのです。
 必然性はありません。むしろ嗜好のためですらも無いのですが、それでも私は例の食パンの封を開けて中身をむさぼりました。1枚、2枚、3枚、8枚切りの食パンを3枚、何も塗らずにむしゃむしゃと食べました。
 私は胸を撫で下ろし、再び床に就きました。
 私が何も知らなかったら、私はそのうち餓死していたのでしょうか? ご飯を食べたのは、私が人間だからでしょうか?
 結局、何も分からずこの実験は幕を閉じたのでした。
作品名:空腹とご飯 作家名:染井野