ガラスの辞典
『この階には「鍵」があと7つあります』
とそこには表示されていた。
「機械」は簡単に言うとガラスのカードで、表面に小さな噴水が出ていた。
その水しぶきの中に、よく分からないカラフルな滲みに混じって、白い文字が浮き出ているのだった。
「迷路」が退いたのはいいけど、ものを持ち帰ったのはまずかったかな。
僕は押しせよせる嬉しさを抑えるためにそんな風に考えた。
僕がさっき迷った[迷路]は『8月11日の午後』だった。
ということで、「こっち」でもだいたいその辺りに着地しているはずだ。
と思っていると案の定、警官に例の殺人事件の事を尋ねられた。
彼に肩を叩かれるまで、僕はそれが「屋敷」に続いている道だと気づかなかった。
それほど[機械]に夢中になっていたわけだけど、「よかったら話を聞かせてくれないかい?」というおなじみの声を聞いてかなりトーンダウンした。
「例の事件についてですよね。僕は‥」
「あ、君は『繰り返しの街』の人か」
この警官はいつも察しが良くて心地よくすらある。
そうなんです、と僕は言って、ポケットに「機械」を隠した。
「ところで、今日は8月1日だよ」
8月1日?
「迷路」と「こっち」が10日もずれていたのは初めてだ。
どんなに激しい「迷路」でも、3日以上差が出ることはなかったのに‥。
「あれ?向こうから帰ってきたばかりじゃなかったかい」
警官が不思議そうに尋ねる。動揺したつもりが、「知ってるよ」というような顔になっていたようだ。
「いえ、その通りです。ありがとうございます」
僕は礼を言って、早足でその場を去った。
【執筆中】