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宝の地図

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 甲山の町はお盆一色になり、近所のお寺の境内には盆踊りの櫓が建てられ、大汗をかきながら町を往来する袈裟の姿をよく目にする。稲垣家でも普段使われていない仏間の仏壇はきれいに飾られて、今にでも食べたくなるような供え物が並んでいる。叔父さんや叔母さん、いとこたちも訪れ、町の大学に通う兄ちゃんもウチに帰ってきて久々に家が賑やかになった。兄ちゃんは髪の毛を金色に染めて、私が見てもひどい姿で帰ってきた。私がダメ出しする前に家族全員から集中砲火を浴びて、ツンツンの髪が萎れる程にへこんでいたので、私は笑いをこらえて何も言わなかった。 
 帰ってきたのは兄ちゃんだけじゃない。仏壇には私たちのご先祖様も帰ってきているのだ。今まではおじいちゃんに説明されてもピンと来なかったけど、今回の出来事を通じておじいちゃんの言う事がわかったような気がする。

 仏間の横には縁側があって、夜は窓を開ければ涼しい風が入ってくる。私は浴衣に着替え、庭で小さないとこたちが花火遊びをしているのをそこでお守りしているおじいちゃんのところまで、お供えの西瓜を持っていった。
「ほう、なかなか似合っとるのう」
「今度部活のみんなで盆踊りに行くんだ」
「そうかそうか……」
 おじいちゃんはニコニコしながら西瓜に手を伸ばした。今日は孫に囲まれて嬉しそうだ。いとこたちも手を止めて西瓜に集まってきた。私も縁側に腰をかけると、金髪の兄ちゃんもやって来た。モテるために染めたらしいけど、やっぱり似合っていないよ、それ。
「麻衣子、蔵の中から見つかった宝の地図はどうなったんだい?」
 兄ちゃんは目の前にある蔵を指差した。
「あったよ、宝物」
「ホントに?何、何、宝って」
私は仏壇の横に置いた『宝の地図』を取ってきて兄ちゃんに見せてやった。
「これが宝物だったの」
「このメモ書きみたいのが?」
「そうよ」
 私はここにいる親戚全員に、すべてを話した。足らない部分は横からおじいちゃんが補足してくれた。

   百年の時を越えて私の手元に来たラブレター

 私の思っているような宝は見つからなかったけど、確かに宝は見つかった。麻二郎爺さんがキノヱ婆さんに贈った最初で最後のラブレター。そう、私が今手にしているこの手紙そのものがキノヱ婆さんにとっての宝物だったのだ。これがあるから今ここに私たちがいるのだ。

 そして、その一枚には「時代」が詰まっていた。メールで送られてくるものとは比べられないくらい重く、そして誠実な。

「ははーん、ナルホドね。宝といえば宝だ」
「でしょ?」
 私はそれを元の位置に戻し、仏壇に手を合わせた。声は出さずにご先祖様に御礼を言ったあと、私も縁側に置いてある西瓜を手にした。 

 蔵の向こうで花火が上がった。甲山では今日と明日花火が上がる。一つ、また一つ、大きな打ち上げ花火は七色の光を瞬かせ、夜空の闇に溶けていった。明日は河原まで見に行きたかったけど、あいにく松下先生が来る日だ。花火は部屋の窓からも見える、だから私は別にいいかなと思った――。


宝の地図 おわり
作品名:宝の地図 作家名:八馬八朔