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昔々ある所に、ハートの王様が住んでいました。

彼の奥さんはハートの女王、つまりこの国の御后様です。
ハートの女王は、首を切るのが大好きでした。彼女に仕える召使、侍従、庭師、その他諸々はいつ首を切られて死んでしまうか気が気ではありません。彼女は、いつだって言いがかりをつけては花を摘むように首を切ってしまうのです。

実の息子であるハートの王子、ジャックはそんな母親に耐えかねて、早々にタルトを詰め込めるだけ詰め込むと国外へ亡命してしまいました。勿論女王はおかんむりで追っ手を差し向けましたが、兵は皆連れて帰ろうが帰るまいが不機嫌な女王に首をはねられることがわかっていましたから、誰一人として戻ってきませんでした。もしかしたら王子が兵を逃がすために行った逃走劇なのかもしれませんが、いやはや真相は闇の中。結局トランプまるまる一組の兵がいなくなってしまい、女王は召使の首を3つ4つはねるまで不機嫌でした。

王子は、まあ彼のことですから、きっと宜しくやっていることでしょう。

ある日、王様は女王に問いかけました。


「なんでそんなに、首を刈るのが好きなんだい?」

女王は、さも興味のない顔で王様を見ると、呟きました。

「好きなんかじゃないわ。好きなんかじゃなかったわ。」

怪訝そうに顔をのぞく王様から顔を背けた女王は、続けます。

「一つ目の首をはねた時に思ったの。今首をはねた罪は、いつ私のところに来るんだろうと。
二つ目の首をはねても、三つ目の首をはねても、私は一向に罪を受けない。
ある日、私は女王になったわ。いくら首をはねてもいいといわれたからよ。
事実、いくら首をはねても誰も私を咎めなくなった。誰もね。
裁判長の首をはねても私は罰せられなかったわ。
それじゃあ誰が私に罰をくれるんだろう?
私は今でも待っているのよ。罪が私の元へ来てくれるのを。
この首をはねたら来てくれるのかしら。それともこの首かしら。
毎日毎日、その瞬間を心待ちにしながらね。」

王様は言いました。

「私はどうしたらいい?」

女王は高らかに言い放ちました。

「勝手にすればいいわ。」

王様は、困った顔で女王に背を向けました。

「私の首は、はねてはくれないのかい」


答えは聞こえませんでした。
女王はさっさと重い重いドアを閉めてしまったからです。




次の日から、王様は待ち続けました。
待てど暮らせど、女王は王様の顔を見にすら来ませんでしたが、それでも王様は待っていました。



女王は今日も首を刈っています。
お馴染みの白いウサギは召使が足りないので、仕方なく首の補充に走り回っています。
召使達が暇を請う前に、女王は片っ端から首をはねています。
クリケットに使うフラミンゴの首を全部刈ってしまい、クリケットが出来なったことがわかると
女王は酷く取り乱して、一緒にお茶を飲んでいた公爵夫人の肉に埋もれた首を軽々とはねました。
連日首の、いや頭数の確保に躍起になって胃が痛む状況であったので、流石に黙っていられなかったのでしょう、白いウサギが持っていたティーポットを投げ出して
口を開いた時にはもう、白いウサギの毛皮は真っ赤にされた後でした。

困ったことに、白いウサギがいないと城は十分な人員を確保できません。
そのことに女王が気づいたのは、夕食の支度が出来ていないと咎められたコック達の首を根こそぎはねたはいいものの、実際これでは夕食は食べられないことに気がついたときでした。

「ウサギ!ウサギ!」

勿論返事はありません。
召使がいないかと探しても、見つかるのは首をはねられた召使ばかり。



「困っているのかい」

王様は、女王に声を掛けました。

「困っているわ。罰を受ける前に首がなくなってしまったんだもの。」

「私の首をはねればいいじゃないか」

「私は貴方の勝手に付き合いたくはないわ。
私は勝手に首をはねていたわ。罰を受けるために
貴方は勝手に私に首をはねられたがっているけれど、私は私のためだけに罰を受けたいのよ。

貴方の勝手のために罰をこの身にを受けるのは真っ平御免だわ!!」

それだけ言い捨てると、女王は不機嫌に靴を鳴らして長い回廊を曲がり、立ち去りました。
きっと、万に一つの可能性で刈り損ねた首を刈りに行くのでしょう。
王様は少しばかり途方にくれています。
ずっとずっと、女王に首をはねてもらおうと待っていたのに、彼女は首をはねる気はないようです。

窓から外をみると、女王は肩を怒らせながら庭をずんずんのと歩いています。
窓を開けて、生きてきたなかの一番大きな声で王様は叫びました。


「万が一はねたくなったら、いつでも私のところに来ればいいよ!」



返事を聞く前に窓を閉めて、急いで自分の部屋に逃げ帰りました。
王様はやっぱり、女王に首をはねてもらえるのを待つことにしたようです。













古びた城門に鍵はかかっていませんでしたが、古くなって軋み、開けるまでには一苦労でした。
ジャックは、はるか昔に逃げ出した、懐かしき生まれた城に兵達と帰ってきたのです。

庭のバラは木化し、当の昔に朽ち果てたであろう花は悲しいかな、
紅いペンキで彩られたまま風化しきれず残っています。


城は内部まで苔生し
窓は落ち
面々とつながる倒れた人々の上にも草が生え

ジャックが記憶を頼りに回廊を進むと、不自然に少しだけ空いた大きな扉の前に行き着きました。
記憶が正しければ、此処は実の父親のハートの王様の部屋のはず。

城門とは違い。扉はいとも簡単に開きました。
回廊に綿々と横たわる人がいたのとは裏腹に、ひっそりと静まる部屋の中にあったのは、
椅子に腰掛けたまま骨になった王様でした。







床板も弱くなっていたのでしょう。骨になった父親に近づこうとジャックが足を踏み入れた瞬間、
床の軋みとともに、王様の頭蓋骨は王冠とともに床に落ちて、ゴトリ、と音を立てました。
変わり果てた父親の首の、眼球の無くなっている空洞と眼が合うと、
後ろから長い裾を引きずって歩くような音。

「何が待っている、よ」

「何がいつでも来ていい、よ」






もう落ちた首をどうやってはねろっていうのよ
作品名: 作家名:ik_brtr