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吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
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うなぎ

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土用の丑の日。さすがに鰻屋は混雑していた。午後8時と言う時間帯も悪いのだろう。50人ほど入る店なのだが、店の外に10人ほど待っているし、店のなかには20人はいる感じだ。
 普段は、どんな有名な店でも10分以上待っている事は無い。待つのは嫌いなのだ。今日は妻と一者なので仕方なく待つことにした。店のなかは座る所がなく、店から出た。熱風が鰻の臭いを運んで来た。換気扇がすぐ近くにある。小さな池があり水車が回っている。その水音がほんの少し涼を運んでくれる感じがした。
「こんなに待ってどうして鰻食べたいの」
小学1年生くらいの男のかが白髪の老人に言った。
「土用の丑の日でね。元気になるためだよ」
「僕は鰻は気持ち悪いよ、へびみたいだもの」
自分も子供の頃はこの子と同じだった。食わず嫌いで鰻を食べたのは40を過ぎた時だ。食べてみると旨い。その頃はさほど高級ではなかった。かつ丼くらいかもしれない。
 座席に着いたのは9時少し前であった。こんなにも待ったのだからと特上を注文したら、3600円である。コメが10キロ買える値段なのだ。
 会社の経営が苦しかった時は、米を買うのにも妻は最低のものを買ったり、最高のものを買ってみたりと苦労したらしい。安いコメは不味くて、おかずにお金がかかる。上手いコメならおかずはいらない位だと言う。確かに美味いコメの握り飯は満足できた。
 「鰻を食べに行くか」
と言って食べに来られる今が幸せなのだろう。
従業員たちも鰻を食べただろうかと思わずにはいられなかった。
季節のものをその時に食べられる、誰もが食べられる、そんなことを思いながら、明日の仕事も頑張ろうなと思っていた。
作品名:うなぎ 作家名:吉葉ひろし