ヤマト航海日誌
だからコピペですよ、コピペ! コイツが書くものオレだけが読んで、おもしろかったらコピペして、自分が書いたものとして萌え絵の表紙を付けて発表してやるんだ。そしたらきっと爆発的に広まって、『○○さんてすごーい! カッコいい! どうしてこんなものが書けるんですかあ』なんてみんなに言われちまって、プロの作家としてデビューだぞ、なんて考え持っちまってて、その考えでおれをジーッと狙っている。そんなやつらが五十人くらいいて、〈自分と同じ考えのやつが他に四十九人いるかもしれない〉なんて思ってみることはぜんぜんないんじゃないかという……そんな気がするんですよう。
「アナタ、ちょっと、頭おかしいんじゃないですか? あんまり人に読まれないもんだから……」
いや、読まれないようでいて、変に読まれてるようでもあるから、自分が雉にされてるみたいな気がするんじゃないですか。今のおれはその連中の密猟の獲物として狙われているのではないかという、そんな気がしてくるんじゃないですか。ああ、どうして、こんなことになったんだあ。
「被害妄想でしょう、それは。『復活篇』のディレクターズカットとかを作ってた頃の西崎義展と同じですよ。あまりにも人に見向きもされないから……」
そうかなあ。他人がネットに出したものをコピペして、自分が書いたものとしてあわよくば注目を集めてやろうと考える輩は結構いるんですよね?
「まあ、いるらしいですね。それがうまくいった話は聞きませんが……すぐ他の人に見つかって、『これはコピペだ!』と通報されたりして」
そういうことになるものですよね。あるいは、ほとんど誰にも見られずそれきりとなってしまうかだ。しかしやるのが後を絶たない。なにしろたとえば〈ヒマラヤ雨ヨ田カ〉なんて名前を使ってやるものだから、オレだとわかるわけがない――そういう考えでやるわけでしょう。やるやつは。
でもダメなんだな。必ずバレる。やるとき友達十人まわって、『ちょっとこの〈ヒマラヤ雨ヨ田カ〉っての見ろよ。カッコいいと思わない?』なんてなことをやるもんだから、後で『お前だろ』とかね。そういうことになるものですよね。犯人探しが行われ、必ず特定されるんですよ。
なのにやるのが後を絶たない。やる人間は、市橋達也なんですよ。誰の心の中にでも、市橋達也はいるんですよ。ネットで何かあまり人に知られていないカッコいいものを見つけたら、心の中の市橋達也が叫ぶんですよ。これだ! これをコピーしろ! オレの著作物として出すんだ! そしたらオレはカッコいいぞ! ものすごくカッコいいぞ!
カッコいいわけないじゃんねえ。やったらそいつは、市橋達也が落ちたのと同じ地獄へ行くんですよ。けれども魔物に心を乗っ取られてしまうと、そんなことに気づく頭を失くしてしまう。
「ふうん。で、何。アナタは五十の市橋達也に自分の小説が狙われてると思うんですか」
そんな気がするという話ですが。
「バカバカしい。やはりあんまり読まれないから、心がネジケてるんじゃないかな。アナタの書くものが読まれないのは、たんに読んでもつまらないからに決まっています」
そうなのかなあ。でもねえ。これまでなんだかんだと三年もやってきてるじゃないですか。一年目二年目三年目と、読まれないのはずっと同じなんですけど、同じようでなんか微妙に違う感じもするんだよなあ。他の数字はどれもこれも最低なのにフォロアーの獲得率だけ異常に高い。それが年を追うごとにより極端になってくような……。
おれは最初の一年目はフォロアーの獲得率は二割か三割かなと思ってたんですよ。それだって本来ならばおよそ有り得ない数字でしょ。この世の中にそんなものが一割超えるものなんて存在するわけがない。どんな一流の作家がやっても一割なんて絶対超えない。それが常識と思うでしょうが。
なのにおれのは二割以下にはとても見えなかったんだよう。ましてや今の獲得率は一体どんな数字なんだよう。六割か七割くらいいっちまってるんじゃないのかよう。
なのにその一方で、読者の伸びは逆に落ちてる! もともとてんで低いものが、今はとんでもなく低くジワジワとしか増えてない! なんでなんでいついつ見ても、〈1〉の『セントエルモ』より、〈2〉の『ゴルディオン』の方が数字が伸びているんだよう。こんなこと、有り得ねえはずじゃねえのかよう。
「それは〈2〉のがえらい分量があるからでしょ」
ただそれだけの問題ですかあ? そもそも〈2〉を開けるやつがいるというだけでおかしいのに……あと、それから、ここに『太平洋の翼』ってのを出したでしょう。わざと細かく分けてやってね。あれも読まれなかったけど、途中でほら、〈これは昔のフィルムカメラでは無理だったが、今のデジタルカメラではなんなく撮ることができる〉ってことを説明するでしょう。そこからパタッと開けて読まれなくなった。後はきれいに《4》《4》《4》と、〈開けたのは四人〉の表示が並んでね。
「だからみんなが読む価値ないと思ったんでしょ。ただそれだけのことですよ」
そうかなあ。けれどあれがデコイだっての、おれは最初から書いていたのに。密猟師どもは『ひょっとしたらということがある』と思って銃を取り出して、あそこで『なんだ本当にデコイか』と思って去っていったんじゃないのかなあ。
「そこでやめた者達はアナタのオリジナル小説をコピペする目的だったと考えているわけですか」
どこまで本気かわかりませんがね。百パー本気でそんなことを企むやつは滅多にいないと思うんですよ。けれども逆に、そんな考えまったく起こさぬ人間がいたら、それはむしろ人間じゃあないような気もするんですよ。
それにまたこういうサイトでこういうものを読む人間が、そんな感情カケラも持たないなんていうのも、ないことないんちゃうのかな。『オレが見つけたものならばオレのもんだ』と思うのが人間じゃあないのかな。
おれの場合はまた別でね。おれは一切そんな考え持ったことはないけれども、それはちょっと開けてみる他人が出しているものがあまりにひどくて『よくこんなの人に出せるな』と思うだけで終わりという。コピペなんてできるとも長い間知らなくて、最近やっと気づいて初めて、『えーっ? できるのお?』と思っちゃったほどなんですが。
しかしどうなんでしょうかね。たぶん、コピペするやつも、最初はチラリと頭にそれが思い浮かぶだけじゃないかな。最初っから百パー本気の市橋達也ハンドレッドなやつはそう滅多にいないんじゃないの。
最初は自分が読むだけの気で他人(ひと)のものをコピペしていく。こういうサイトが出されたものを簡単にコピーできるようしているのが悪いんですよ。まあ文章なんてものは、〈手で書き写す〉っていう手段がありますから、完全なコピーガードなんてしようがないとも思いますけど。
おれは自分の『敵中』やこの日誌をコピペされるのは別にいいのよ。でもやってればそいつの手元にどんどんデータが積み重なっていくわけでしょ。で、そのうちにチラチラと頭に思い浮かび始める。『こいつをオレが書いたものということにして――』と。