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ヤマト航海日誌

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2016.3.27 ゴジラ対おっぱい星人



ゴジラ〜、ゴジラ〜、ゴゴゴゴゴゴゴジラ〜、ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴジラ……そう言えば「東浦和、西浦和、南浦和、北浦和、武蔵浦和、中浦和。浦和は七つの駅がある」なんていうような歌があったな。山本リンダの『ウララ』のフシだよ。

浦和(うらわ)は埼玉県にある。東京湾にゴジラがいる。世界は原爆怪獣の吐く放射能に汚染され、人はもはや日本の関東平野にしか残っていない。ゴジラを討つべくすべての試みは失敗した。

いや、ひとつだけ残っている。核だ。核ミサイルだ。ミサイルの矢でゴジラを突き刺して、腹の中で核を起爆させるのだ。人類が生き延びるにはもうそうするしかないのであれば、もうそうするしかないだろう。

だが、待ってくれ、と言う者がいる。人間はもう関東にしかいないのに、ここで核を使うのか? 核によって生まれたゴジラを核で殺せるのか?

それは普通に考えたなら、カエルの口に爆竹入れて火を点けてやるようなものだ。いくらなんでもゴジラもオダブツ……そうは思う。そうは思うが、わからない。もともと、しょせんタンパク質とカルシウムで出来た生物ならなんであれ、鉄の武器で殺って殺れないわけがないのだ。いくらゴジラが全長50メートルであろうと、エメリッヒ版のあれのようにヘリの機銃でダダダとやれば普通ならば死ぬはずだ。

なのに死なない。戦車砲でも、〈F-2〉支援戦闘機に本来は対艦攻撃用であるミサイルを持たせて射ち込んでも、旧戦艦〈大和〉の砲より大きな50センチの大砲造って撃ってやってもゴジラは死なない。まるで平然としたものだ。

ならば、ゴジラは物理的な常識が通用しない生物と考えるべきではないか。核でも殺せる見込みはないと考えるべきではないか。ゴジラは神だ。神を人が殺せるのか? そんなことが可能なのか?


   *


――とまあ、こんなところが、伊藤計劃という作家が夢で見たと書いて残した〈ゴジラ〉のスジだ。それをおれが読むとこうなる。こうなるけれど、たぶんあんまり人はこういう読み方はしない。

出渕裕ならばもちろん、アメリカが核を使って死ななかったゴジラなのに、自衛隊が「てーっ」と叫んでドカドカやれば「シェーッ」となってあの世行き、という話になるであろう。ゴジラを愛する人は、こーころキモき人〜。自衛隊も喜んで撮影に協力してくれるだろうから、これでなんの問題もない。

いやいや、それじゃあかんでしょう。だからゴジラとヤマトはダメと人に言われてきたんでしょう。ゴジラもヤマトも本当の敵はおっぱい星人なのである。出渕裕を倒さなければ何も始まらないのである。誰かがおっぱい星人から、子供の未来を護らなければならないのだ。

伊藤計劃という人は、ゴジラの映画をどうやら毎年、子供がどんな反応してるか窺いながら見ていたようだ。だがこの故人を讃える人は、そういう部分は見ないし関心持たないようだ。

ハヤカワSFなんか読むのは結局おっぱい星人だから、〈お子様〉などという存在はむしろ都合が悪いのだろう。おれなんかその昔に山崎貴の『リターナー』をビデオで見たとき、これはおれに子供がいたら見に連れてってやりてえ感じと思ったものの、『実写ヤマト』はとても子供に見せられねえ、こんなの絶対喜ばねえと感じたものだが……山崎貴はヤマトよりゴジラを撮れと言いてえよな。ホントのホントに子供に見せるもんとしてよ。

〈平成ガメラ三部作〉もまあいいと言やよかったけれど、まあいいと言やいい程度だった。結局、おっぱい星人に負けて、コドモオトナが見るものになってた。

ガメラは死なない、何度でも蘇るさ、ガメラの力こそ人類の夢だからだ……なんて具合に子供向けでもちゃんと作れば大人が見れるようになるのに、バカにやらすとほんとに死なずに蘇る話を作りやがるから困る。おれなんかにはまだ『エメリッヒ版ゴジラ』の方がおもしろかった。ジャン・レノがいなきゃとても見れたもんじゃねえとも思ったけれど……。

故人の〈夢のゴジラ〉にしても、かなり困った難題だよなあ。ガメラが神ならゴジラも神だ。神は死なない。なのに殺すことができるか。殺せたとしたら、どうなるか……。

これにうまい解答が出せたら、なんかすげえお話が作れそうな気がするんだけどな。映画であればキモヲタだけが見るようにしか今の日本では作れんだろうが、小説なら関係ない。タダで読ませるネットの投稿小説なら、なおのこと関係ない。書きたいものを好き勝手に書けばいいのだ。読むやつだけが読めばいいのだ。どうせおれは著作権法など知ることじゃない人間だし……。

って、いけねえ、この話は人に譲ると前回ここに書いたんだっけ。どなたかほんとに挑んでみる気ありませんか。書いても誰も読まないかもしれないけどさ。

そう言や昔におれが書いた『アパチュア・アンド――』って小説は、カメラマンが「神を撮ることができるか」と考える話だったっけ。あれもどうせ、誰も呼んでくれないだろうな。

世の中にはキモいオタクとキモくはないオタクの他に、おもしろいオタクとつまらないオタクがいる。〈つまらないオタク〉ってのは知識に寄りかかってたり、自分では何も生まずに論をこねてるオタクのことだ。理屈っぽくて、おれが今してるみたいに四つのタイプにオタクを分類しようとする。

・キモいけどおもしろい
・キモい上にウザい
・インパク知(ち)
・ソレイホ刑事

の四つだね。理想は普通に考えたら三番目のはずだけど、滅多にいない上にいても埋もれちゃうだろう。

キモくてつまらん出渕裕の「てーっ」「シェーッ」に押されちゃって、いちばんひでえはずの企画が常に通っちゃうんだ。おっぱい星人ヒロミの目には、〈インパク知〉より〈キモつま〉の方が良く見えてしまうのだから……。

浦和〜、浦和〜、うらうらうらうらわ〜。うらうらうらうらうらうらうらわ〜。浦和を護れ。関東を護れ。東京湾にゴジラがいる。横浜あたりで決戦だ。核が炸裂。ベイブリッジも観覧車もみんなドカーン! さしものゴジラも――さてどうなる? 粉微塵に吹っ飛ぶのかな? うーん……。

ハテどうしよう。核が通じてゴジラが死んでメデタシメデタシじゃつまらんし、通じなければ人類が滅ぶ。たとえゴジラを倒せたとしても放射能の問題は……ええと、どうしたらいいんだろう。困ったな。むろん〈オキシジェン・デストロイヤー〉とか〈スーパーX〉とかはダメ……。

それじゃ全然〈インパク知〉と言えんのよ。ここで子供が「えーっ!」と驚き一生忘れねえような案を使って人類が救われる結末をひねり出せたら、ハリウッドに「どうだ」と言えて大人も納得のカッコいい〈夢のゴジラ〉が作れるんだ。うん、そういうことなんだ。そういうことなんだけどもさ。

どうだろう。バラバラに吹っ飛ぶけれど『ターミネーター2』みたいにまた寄せ集まって、倍の大きさになっちゃうとか……いくらなんでもバカバカしいか。それになんの解決にもなっとらん……。

イヤハヤ、まるでナントカの最終定理ですな。どのみち、おれがやったって、どうせ誰も読まないだろう。おれはやっぱりやめとくから、誰か代りに考えてよ。さすが天才の遺した問題。取り組み甲斐があると思うよ。

作品名:ヤマト航海日誌 作家名:島田信之