ヤマト航海日誌
2016.2.28 論争に火を点ける
夢とか時間とか、最初に言い出したのは誰なんでしょうね。何年か前に評判になった小説にこれと似たようなフレーズを登場人物が口にする場面があって、人に言わせると某有名ゲームの主題歌からのイタダキらしい。おれとしてはそんなもんに気づくやつの気が知れん。それで何がうれしいのかサッパリわからないのである。
ボクがターザンなら、キミはジェーンだ。〈土人〉は差別用語だと最初に言い出しやがったのは、一体どこのバカだろうね。
〈ザ・コクピット〉の『爆裂弾道交差点』が舞台のモデルにしているのはニューギニアのウエワク基地――だと思う。作中に「ロス・バレンチの飛行場を攻撃」とかいうセリフがあるがなんのことかわからない。だからまた間違ってるかもしれないけれど、すみませんね。無学なもんで……。
けれども今のニューギニアに行ったって大戦の記録写真に写ってるような裸族などもういねえよと言ったって、ギャートルズは「そういう問題じゃない」と言い張るだけなんだろうな。学を持ったら自分は名誉白人になるとでも思い込んでんじゃねえのか、ちょっと。
何がうれしいんだ、そんなもん――こんなおれでも、そこらにいる口だけ立派でまともな仕事はなんにもできないネクタイ野郎なんかより、自分の食い物自分で獲って妻子を養う男の方がずっとカッコいいのはわかるぞ。おれはほんと、できるもんなら南の島でアアアと叫んで暮らしてみてえよ。ホワイトカラーに赤ネクタイの白んぼかぶれ野郎が来たら、石をぶつけてやるんだよ。それが正しい人のあり方つーもんじゃねえですか。
〈正しい資質とは何か〉と、最初に言ったのはトム・ウルフ。〈ローソクに火を点ける〉と最初に言ったのは誰なんでしょう。おれが知りたいのは著作権の問題だ。好きとか嫌いとか書いて、JASRACにイチャモンつけられなかったんかな。その程度のごく短い使用なら、大丈夫だと見ていいのか。
『アルマゲドン』は石油掘り男の話だったが、炭鉱夫にも〈ライト・スタッフ〉は求められよう。「月が出た出た」の『九州三池(みいけ)炭坑節』を作ったのは小野芳香なる人物というのは前に書いた通りだが、しかしこの歌、三池の町で炭鉱夫達が元から歌っていたものに小野が手を入れ曲を付けたものだという。つまり作曲は小野なのだが、歌詞は完全なオリジナルと言えない。「三池炭鉱に月が出た」と最初に歌った人物が誰かは不明なのだとか。小野にしても酒席の余興で適当に歌っただけに過ぎず、これは本来、一夜限りの歌となるはずのものだった。
しかしこれが全国に広まり、あちらこちらの炭鉱町で「松本炭鉱に月が出た〜」「西崎炭鉱に月が出た〜」と歌われて、「ウチが先だ」「いーや、ウチだ」と論争に火が点いてしまった。そこで請われて小野が名乗り出たのだが、しかしあくまで『民謡に作者は不要』という考えで、決して「おれ、作者です。」と我を張ることはなかったという。誰の作でも〜、いいじゃないか〜、みんな自由に〜、使えばいい〜。
でもCDでもし仮に、ささきいさおが炭坑節を歌ってるのがあったとして、それを買って君が迂闊なことに使うと、ソレイホ刑事に捕まって取り調べを受けるらしい。著作権はとにかくとにかくややっこしいのだ。
夢と時間は冥王星とカロンのように互いに互いを裏切らない。でもどっちがより裏切ってならないのかうろ覚えでおれは知らない。なのにここにこう書いてネットに出すとソレイホ刑事がやって来る。
「この一文は槇原敬之の歌の歌詞にそっくりだね」
「そうなんですか。でもおれ、その歌、聞いたことがないんですよね。いや、CMでひょっとして耳にしたかもしれないけど、その憶えはまったくない。それを〈侵害〉と言われてもなんか心外なんですけど」
「とにかく、〈それ、違法です。〉から」
「『999』はガキの頃に〈少年キング〉を毎週立ち読みしていたけど、平成になって再開したのはまったく読んでないんですよね。〈夢だ時間だ〉と言われてもなんのことかわからなくて、最近になって『エターナル・ファンタジー』をケーブルTVで初めて見て、鉄朗がどっちがどっちを『裏切らない』と言うのを聞いて『ははあ、これかい』と思いはしたけど何が何やら」
「ほら、また言った。それは槇原敬之の歌だよ」
「ここにいま書いて出しちゃっていますけど」
「あ、本当だ。バカ野郎、やりやがったな。著作権法の本読んだならてめえが一体何をしたかわかるだろうが。これがいくらの罰金またはどんだけの懲役になるかわかるだろう!」
「わかんねえよお、あんなもん……これって、おれより、読むやつの方が悪いんですか」
「そうだよ。わかってんじゃねえか」
「警察としては取り締まりたい」
「そうだよ、できるもんならな。このログを読んだ人間は自首しなさい。良心があるんだったら自首しなさい」
「しかしですよ。こんなことがここに書いてあるなんて、読む前からわかるわけがないでしょう」
「そういう問題じゃねえんだよ。どんな事情があろうとも、これを読んだら読んだやつがお前よりも悪いんだ。槇原敬之の権利を侵害してるんだ。お前だってそう思うだろ? 読むやつを取り締まれって言いてえだろ? だからってな」
「別に言いたくないですけど」
「ハア? 何を言ってんだ。お前みてえな野郎がそれを言いたくねえわけがねえ。だからおれが先回りして言ってやってるんだろうがあっ!」
「いや、言う気はないですね。それは罠でしょ、刑事さん。おれはそこらのキモヲタと違って、そのテには絶対ひっかかりませんよ」
毎度毎度こんなことを書いていて、『ヤマト』から話がそれてるこの日誌。元はと言えばあのCMの俳優を松重豊と間違えたおれの頭がいちばん悪いわけである。
しかしこんなおれにも少しは、わかることがあるもんである。世の中には、ネットに流れる著作権侵害物を、流す者より見る側が悪いのだから取り締まれと言いたいけれど言えないやつがいるわけだ。
そりゃあ、言えるわけがない。だから世間の一般人に、なんとかしろと言わせたい。「取り締まるわけにいかないんですか、取り締まるべきです、取り締まる法律を作りましょう」と民衆が言い出すように仕向けたい。
もしも彼らのもくろみが達せられることになったらそれは素晴らしい世の中である。君が道で老人に「すみません、ちょっとお尋ねしますが」と言うと途端に〈目ん玉つながり〉に囲まれ、「それは『アルプスの少女』の歌詞だあーっ!」というので罰金四千円。君はまだいい。相手のおじいさんは刑務所に送られ、あまりのショックで獄死することになるであろう。
スターリンはそれをやった。山本太郎も頑張ればやってできないことはあるまい。ダメなら努力が足りんのである。理想社会の実現のため、鉄の意志で臨んでください。
ギャートルズの夢なんか時間に裏切られてほしいとおれは願うところである。こんなことを書いてるとおれに良識があるみたいだ。〈おれ、無法です。〉な人なのにねえ。