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ヤマト航海日誌

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2019.12. 27 起こしてやろうかボーンメラメラ



九十九と書いてツクモとか、999と書いてスリーナインとか、日本人というやつは字にルビ振って無理矢理に変(イレ)則(ギュ)的(ラー)な読み方させるのが好きだよな。しかしそれが固有にして独自の文化というものである。おれもべつだん嫌いというわけでもないが、しかしやるにはセンスが問われる。本気と書いてマジと読むのをあまりしつこくやってると、「マジうぜえ」と言われてしまうし、強敵と書いてトモと読んだら、「ホモだろ。それもゴリマッチョな」と言われることになる。

だからおれなんか現行犯逮捕と書いてコート・イン・ジ・アクトとか、ゲンタイと振る程度にしているんだが、マジうぜえだろ。でもそれは、〈エンドレスエイト事件〉というのを後で話にだけ聞くおれが、


「そんなもん別に見なきゃいいじゃん。なんで見るの。だいたい、そもそも萌えアニメなんていうものをさ。今度こそループを抜けると思うもんだから三十分間掛ける八、しっかり話に付き合うのか。いくらなんでも三回もやれば普通は見放しそうな気がするけど、ヲタクってのはしつこいんだね。でもホラ、小鳥遊と書いてタカナシと読む、あれだったらいいんじゃないの? 小鳥遊という名前の萌え美少女が、苗字の文句をぶうぶうたれる。それだったら誰もお話に期待しなくて、むしろ『もっと続けてくれえ! 何度でも見ます。DVDも買います。ボクらが〈京アニ〉に求めるのは、これとまったく同じ話でただ画だけが違うものをずっとずっと作り続けてくれることだけ!』なんつっちゃってみんなハッピーになったんじゃないかな。でもまあ、結局、放火魔と書いてアカウマと読むやつを呼ぶのは同じかもしれないが……」


なんて言うのと同じで君らの方が悪いの。その『エンドレスエイト』ってのを、地上波やレンタルビデオで見るならまだしも、なんでどうしてセルソフトを買ったりまでするのかね。おれも昔に『妖精作戦 ラスト・レター』を八回くらい繰り返して読みながら、そのたびにあの結末が今度は変わってくれるんじゃないか、なんてな気がしたけれど、今の創元の画を見たって『ひょっとして』なんて今更思わないよ。だいたいが〈半袖〉という時点で『違う』と決めてるんだし。

そうだろう。そこで間違いに気づかなきゃおかしい。「お布施」と言ってお話がつまらんものにカネを出すから、クリエイターが『画さえ良ければ脚(ホ)本(ン)はどうでもいいんだ』と考えるようになるんだろうに。で、君らが本当にそれでいいようになるもんだから、話が全部同じになるためそれ見て『これはオレの話と同じ』と考えるやつが出ちゃうんだよ。

だからあれは君らが悪いの。〈京アニ〉のアニメを見ていた人間が悪い。小鳥が遊ぶと書いてタカナシと読むっていうのをおれが最初に目にしたのはもう20年ばかり前、まだ20世紀の1998か9年だ。創元社の〈日常の謎ミステリ〉ってのを『どれも同じ』と思いながらも図書館で借りては読んでて、その中に、あったんだわさ。と言ってもよく憶えてないが、確か、小説の新人賞を獲って本を出したばかりの作家が、〈小鳥遊○○〉というペンネームを使っている。小説家の筆名に変わったのは珍しくない。奥付の名に振られたルビは《ことりあそび》なのであるが、


「本当の読みは違うんです」

「え?」

「ボクの本名は高梨ですが、祖父の時代までボクの家では表札を小鳥が遊ぶと書いていました。それで鷹無しと読む……はいからさんが通る時代はそれでもよかったんですが、昭和になって白い眼で見られるようになったそうです。『中国人に服従か死を選ばせろ。〈準日本人〉になるなら良し。さもなければ死あるのみだ』なんて言ってて新聞にも、天皇陛下が『鏖(ミナゴロシ) チャンコロなんか鏖 重慶爆撃ボーンメラメラ』だとか詠んでるという歌が毎日載っている。国民みんながそれをありがたく読んでいる。そんな時代に『鷹無しだから小鳥が遊ぶ』はもういろいろとまずかったらしい……」

「それで改姓を? ですがそういう話はちょっと……」

「いいえ。このブログには、本当のことをどれだけ書いても炎上しないから大丈夫です」


だとか、書いてあったんだよ。うん。本当にあったんだよ。おれが言ってんじゃないからね。その本に書いてあったことを思い出して書いてるだけで。読んで電気が体中にビビビと走ったとしても、その怒りはおれでなく書いたやつに向けてください。なんて作家のなんて本か? いや、それがどうしてもおれには思い出せないんだけど。

『嘘をつくな』? いや、本当に本当なのよ。創元の〈日常の謎ミステリ〉なんて、どれもまったく同じじゃん。タモリの『トリビアの泉』みたいな、無駄知識ひとつだけで話が作ってある。読んで「へえ」と思うだけで、返して忘れてそれきりになるから、短編なんだがなんて作家のなんて短編集にあったなんて話だったのかが記憶にない。記憶なんかできるわけない。

「へえ」どころか「センスわる」と思っておしまいだったんだもの。憶えてるわけないじゃないかよ。十年後にラノベやアニメが小鳥遊という名の萌え美少女だらけになる、まるでその頃、街に溢れたヤマンバギャルみたいにウジャウジャ……そんなの知るよしもないもの。

だからおれには不明なのだが、確かにそんなのがあるから、そのテのものに詳しい人ならわかるんじゃあないですか。もっとも、案外〈小鳥遊と書いてタカナシ〉ネタの話が〈日常系〉の作家に当時たくさん書かれてたりして。

それも詳しい人に聞いたらわかるんじゃないですか。高梨と書いてコトリアソビと読むっていうのは、たぶんこれがすべての元だ。ヲタクが読んだらビビビッと体中に電気が走って、自分が書くラノベの萌えヒロインの名にする。それを〈京アニ〉がアニメ化すると、同じ話を書く人間がたちまち千人二千人。

その全員が最初から自分で思いついた気に完全になっちゃっている。どうしようもねえ……って言うか、キモい。いつでも、探しているよ。どっかに、小鳥遊ノブを。新宿駅で。その東で。田舎じゃない……となると、綾瀬? それとも、市川? やっぱり、あの辺の人か。けれど訪ねてみても、そんなところにもういるわけがないというのに。

ヤマンバ、いやいや、小鳥遊なんて名前の人間が過去に存在したとしても、昭和裕仁が〈2(ダブル)2(ツー)6(シックス)事件〉のバンカラ将校達の処刑を命じたすぐ後くらいにみんな改姓しているのに違いない。あるいは、字を〈高梨〉とでも変えているに違いない。だからもう日本のどこにもいるわけないのに。

しかしそんな話は君に認めることはできないだろう。小鳥遊という女にいつかきっと出会えるとずっと思い続けるだろう。後をつけてりゃ彼女の方でボクに言ってくれるだろう。


「わたしをつけるのやめてください。恥ずかしくはないんですか。わたしの何をあなたは知ってるつもりなんです? わたしを『タカナシさん』と呼ぶのはわたしの名前なんですか。『ボトムズ』のキリコ・キュービーじゃあるまいし。悪いけれどもわたしはそんな名じゃありませんから」
作品名:ヤマト航海日誌 作家名:島田信之