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ヤマト航海日誌

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でもねえ、そのふたつだけだな、はっきり言って。アレに辿り着くまでがもう退屈で退屈で、押井守の映画みてえだよ。それも実写で、白黒で、一体何が言いたいんだというようなやつ。

しかし、やっぱりオーソン・ウェルズが、いや、ウェールズが、観覧車で「アリめ」と笑うのを見てゾクゾクとさせられはしながらも、一方で『ただのバカだろ』と感じてしまう自分がいるというのがね。『水増しペニシリンでなく食塩水を売りなさいよ』と思ってしまうおれがいるのがなんともかんとも。そりゃあ当時のウィーンには実際にいたかもしれんが、こんなアホが……。

さてなんだっけ。どうも自分でも何の話をしてるのかよくわからなくなってきたけど、今日のお題は『スタンレーの魔女は今も笑うか』だったよな。天の高みから人を眺めて「アリめ」と笑う〈スタンレーの魔女〉。その高さは五千メートル足らずということになったけれどもまだ笑うか。

どうせ普通の人間は、ジャヤと聞いても誰も知らない。なのに笑うかという話だった。おれなんか、ここにこんなの書いていたって誰にも知られてなんかいない。しかし眺めて、どこからか、アリが寄ってくるのが見える。

今月初めの十日間の話である。試しに毎日『敵中』を更新したら来る来るアリが。一日に五匹くらいの割合で。

タッタ五匹と言ったところで、どう嗅ぎつけてくるんだか。おれからすれば観覧車に乗って窓から見下ろしているようなものだから、動きがよく見えるんだよ。

小説の方は決して開けない。この日誌だけ覗いてく――妙な話だ。おれは五ヶ月休んだ後で、この日誌は埋もれてすぐに見えなくなるはずなのに。アリどもはどう更新を知ったというのか。

それが日に五人ばかり。毎日それで、ずっと十日間変わらない。そしてもうひとつ不思議なことに、七月にもボチボチあった『セントエルモ』のアクセスが急にピタッとゼロになる。だというのに一方で『馬券術』なんかを開けて見るやつがいる。

この話は前回も書いたね。そういうのがよく見えるのさ。おれのページにおいてはおれが観覧車に乗って窓から見下ろす者で、君らは地を這うアリなんだから。だから毎日何人か、『敵中』の再開に気づいてしかしそれは読まずにこの日誌だけ読んでいく、そして決して人には教えないのだ、というのがハッキリと見て取れるわけ。

そうさ。もちろん前々回の『生存報告』はフェイントだよ。決まってるだろう、あんなもん。ちゃんとよく読みゃ引っ掛けとわかるようにもしてやったのに、無理だよなあ、君達じゃ。気づく頭を持ってなんかいるわけないよな。物事を自分の都合のいいようにしか取らねえやつは簡単に疑似餌に食らいつきやがる。

とは言っても、何も知らずに途中のログを読んでただけの者も結構いただろうから、全部で三十人てとこか。おれは見ながら思っていたよ。おーおー、アリが、砂糖の山が積まれて自分が独り占めできると思ってやってきおったわ。まとめて毒盛って殺してやりたい。

いいかげんに君らの貧弱な測量技術でおれを測ろうとするのをやめろよ。コンピュータやインターネットのことなんかおれはロクに知りもしない人間だけどな、君らのように知ってはいても本当に使いこなしちゃいないもんとは違うんだ。上から目線でおれを見てるといつか本当に脳天を割るぞ。

バカにはどこまで言ったところで無駄だろうがな。〈スタンレーの魔女〉はもちろん今も笑っているだろうね。「五千メートルに足りない」と得意になってる下界のおれを、「それがどうした、アリめ」と言って……。


(付記:8月10日からこの日まで、『敵中』の更新はしなかったのだが、そこで初めて何十人か開けて読む者が現れた)


作品名:ヤマト航海日誌 作家名:島田信之