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おやまのポンポコリン
おやまのポンポコリン
novelistID. 129
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護符

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「あんまり知られてへんのですけど、私ら仏教界でも日々研究が進められてましてな」
 そう言いながら住職は、本尊の脇に置かれた漆箱から、大事そうに一体の護符を取り出した。

「悪霊が居座る家には、以前やと何人もの僧侶が二、三日泊まりこみで経を唱えてました。けど、さる高僧が長年の修行の末、強力な護符を編み出さはったんですわ。それがこちらの退魔護符ちゅうわけです」
 それはパソコンのキーボード程もある立派な護符で、『悪霊退散』と大書きされた文字の周りに阿比留文字でびっしりと書かれた呪文が並んでいた。

 こんなことを言うと罰当たりかもしれないが、それは非情に高そうな護符に見えた。

 住職は俺の不安げな表情を読み取ったのか「いや、そんな高いもんやあらへんのですよ。この護符は悪霊に苦しむ人達に使ってもらいたいという高僧の願いから、五千円でお分けすることになってるんです。ただし・・・」
「ただし?」
「普通の御札の効力は一年間あるんやけども、この護符は短期間で力を消耗させる為に、三ヶ月しか持たんのですわ」
 住職がすまなさそうに説明した。
「かまいません。そちらの護符を頂きます」
 俺は迷わずその護符を買い、持ち帰った。
 

 俺がこのような護符を買い求めた理由・・・それは、新しく購入したマイホームの為だった。
 駅から近く、家庭菜園のできる小さな庭がついた4LDK2階建ての一戸住宅が1600万円と周辺の住宅と比べると破格の安さだったが、やはり理由があったらしく、能力者の妻が引っ越し初日から怯え出したのだ。

「台所でおばあさんがうずくまってるのよ。しかも二階の箪笥には白い子供がかくれんぼしているの」

 もちろん、ウチには祖母も子供もいない。私には、そんな怪しげな連中は見えないが、妻がそう主張する以上、放っておくわけにもいかなかった。
 そこでインターネットで“早くて安くて信頼できる”を売りにしている霊媒師を呼んで調査してもらった処、おばあさんや子供はこの家に関係する霊ではなく、ただこの家が持つ地場が澱んでいるせいで集まってきたということだった。
 霊媒師はこの家を浄化する壺を勧めたが、それはやたら高額で、霊媒師自体も信頼出来ないように思えたので断り、いつも初詣をする近所のお寺で護符を買ったというわけだ。

 五千円という、ちょっと高めの護符だが、それに見合う効果があるだろうか・・・。
 俺はいささか不安だったが、その効果は歴然だった。
 翌日から妻は変な住民の姿を見ることが無くなったという。

 しかし、喜んだのもつかの間。三ヶ月経ったある日、妻が悲鳴を上げた。

 誰も居ないはずの廊下から息使いが聞こえ、寝室のベッドを派手な豹柄のオバサンに覗きこまれたのだそうだ。
 俺はその時、住職が言っていた「護符の効力が三ヶ月で切れる」という話を思い出した。

 翌日は仕事があったので、妻にお寺まで買いに行ってもらうと、以前のものとは別のものを買ってきた。

「住職さんの話では、まったく同じ効果を持った安い護符が発売されたんだそうよ。これだと三千円なの。少し気配は残るけど、一応霊は見えなくなったわ」
 妻は壁に貼った、以前のものより少し小さめの護符を指さした。

 護符を取り出した袋には、『寺庙发的护身符・使用说明书』と、説明書きがついている。
俺は中国語が読めないが、妻が聞いてきた住職の話によると、貼り方は同じでいいそうだ。

 まあ、安くて効果が同じならそれでいいが、どうやら御札の世界にもジェネリックがあるようだ。


    ( おしまい )
作品名:護符 作家名:おやまのポンポコリン