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孝馬 友嘉
孝馬 友嘉
novelistID. 52486
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少年の探し物

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少年はロボットだった。草臥れた洋館で目を覚ました時には既に一人きりで、誰も少年について語る者はいなかった。部屋にぽつんと少年の設計図が置かれていたのみである。目覚めたばかりの少年は、まず洋館の中を探り、そして書庫に辿り着いた。そこには所狭しと並べられた本棚に、ぎっしりと分厚い本が詰め込まれていた。少年は本を一つ手に取り、目を通してみる。そこに広がる世界に、少年は目を奪われた。本は学術的なものが多かったが、中には文学小説や絵本などもあり、少年を飽きさせる事無く夢中にさせた。草臥れた洋館の中からは凡そ想像も出来ない世界が、そこには広がっていたのである。少年は数日で書庫の本を全て読み終えてしまった。そして、こう思った。本の中に存在するものを、実際にこの目で見てみたい、と。まず手始めにすぐに見つけられそうなものから探していった。洋館の周囲で見つけられるもの。例えば、絵本に浮かんだ満月、図鑑に載っていた植物、そんなものから探して、見つけては顔を綻ばせた。次に、少年は人を見てみたくなり、洋館から出て街に足を運んでみた。
大きな街ではビルが立ち並び、車が頻繁に走り、人々は忙しなく往来を過ぎて行く。急な変化に少年は僅かに戸惑ったが、洋館の中からは決して見る事の出来ない世界に目を輝かせた。少年は一度洋館に戻り、使い込まれた鞄を一つ手に取ると、そのまま旅に出る事にした。もっと色々な世界を見てみたいという欲求に、衝き動かされたのだった。書庫の本の内容は全て頭に入っている。旅をしつつ、その中から見てみたいもの、触れてみたいものを探す事にした。そうだ、次はあれを探してみよう。少年は次に見つけたいものを決め、歩き出した。再び街に出て、人々をよく観察する。しかし人々は誰も彼もが忙しそうで、往来を皆一様に足早に過ぎて行くばかりで、ぼんやりと佇む少年に誰一人目を向ける事は無い。過ぎ去る人々全員が固く口を閉ざし、酷く疲れた顔を浮かべている。不意に、その内の一人が無理矢理に方向転換をし、佇む少年にぶつかった。
「ごめんなさい」
 少年はよろめきながらもすぐに頭を下げたが、ぶつかった人物は苦々しげに舌打ちを一つ残して去って行った。よくよく見ると、別の場所でも似たような光景が繰り広げられていた。その誰もが忌々しげに溜息を吐くか、舌打ちをするだけで、謝罪などの言葉が飛び出す事は一切無かった。少年は軽く目を伏せる。此処には、探しているものは無いのだろうか。大きな街ならばすぐに見つけられると思ったのに。少年が諦め掛けようとしたその時、小さな子供が過ぎ去る人々の波の中で誰かにぶつかり、足を縺れさせ、少年の目の前で転んだ。ぶつかった当の本人はおろか、過ぎ去る人々の誰一人として足を止めようとはせず、また見向きもせずに、子供を助け起こそうともしない。少年は慌てて転んだままの体勢でいる子供に駆け寄り、その小さな体を助け起こした。人々はそんな少年と子供を避けるようにして通り過ぎて行く。
「大丈夫?」
 少年が子供の服についた汚れを手で払いながら声を掛けると、子供は何が起こったのか分からない様子できょとんと少年を見つめた。丸い大きな目が、至極不思議そうに少年を映し込んでいる。やがて、少年が子供の服についた汚れを大方払い終え、何処にも怪我が無い事を確認すると、
「ありがとう」
とやっと状況を飲み込んだらしい子供がにっこりと少年に笑い掛けた。
嗚呼、探していたものがやっと見つかった。少年もにっこりと子供に笑い返した。
作品名:少年の探し物 作家名:孝馬 友嘉