鉄の馬で日本を駆けろ!
序章 七月二二日 出発前夜
僕がこの旅を計画したのは特に大きな野望もモチベーションもなかった。もっと言えば自分がこの方法で旅に出るなんて一年前は考えもしなかった。
前の年に取った二輪免許。はっきり言うとまだ初心者である。ローンを組んで無理して買った250cc。免許を取ったのも同じ学科の友人に単車乗りが多かったことと、大学が坂の上にあって単車通学OKで自動車は厳禁だったことが理由だ。そしてもう一つ重要な要素、
大学生というとにかく自由な身分、そして若さ
これは外せない。そして少しの下心――。
今ではインフラが整備され単車も駐車にうるさくなったが当時は単車でどこでも行けた。駐車場を気にしなくて良かった。渋滞にはまる心配もない。
とにかく、単車は自由だ。金はないけど時間と夢なら、ある。
それも腹いっぱい!
せっかく「無限の足」を手に入れたんだ。今年の夏はとことんまで走ってやろうじゃん。
与えられた期間は約1ヶ月。それまでの予定とアルバイトを清算し、春学期の試験が終わる次の日を出発の日と決めた。
一応のシュミレーションはしてみたものの、距離があまり長いので途中で頓挫。当面の目的地だけを決めといてあとはその都度考えればいいやとなんとも適当。
「まあ、一人旅やしどないにかなるで」
と、僕は事前にとれる措置だけはしっかりとった。
出発前夜、学科のみんなで大阪のビヤガーデンで試験の打ち上げ兼壮行会をした。ちなみに自分の壮行会ではない、同じ学科の友人が留学するのだ。彼女の壮行会は大いに盛り上がりつつ、自分も自分でこれから始まる大冒険に激励をかましていた――。
作品名:鉄の馬で日本を駆けろ! 作家名:八馬八朔