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女子外人寮

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何とかしてやりたい


毎朝、この工場と隣のビルの間に有る金網フェンスにへばり付いた、涸れた蔓草を見ながら俺は裏口から出社する。
その通路の中程にトタン屋根の自転車置き場が有る。
そこに並んだ十数台の会社名義の自転車は、その殆んど全てがパンクか空気抜けで、使用不能だった。使えるのはわずか数台だった。

2年3年の研修生達はこの少ない自転車で買い物をやりくりしているのだ。
俺は一年生の(送り)をしているので、毎週と言っていい程買物に乗せて行く。
けれど先輩達はどうしているのだろう。スーパーが近いと言ってもすぐ傍にはない。
コンビニには全く彼女達は行かない。値段が高すぎるのだ。

気になるので、二男で工場長の深川治郎に訊いてみた。
「治郎さん、2・3年生はどうやって買物してるの?」
「自転車さ」
「でも殆んどパンクや空気抜けで動かないよ」
「あいつら乗りっぱなしなのさ。掃除はしない。空気は入れない。パンクは直さない」
「でも、修理代は誰が払うの?」
「そりゃ本人持ちさ。癖にするとなんでも会社で払えと言うから!」と治郎さんは吐き捨てるように言った。

俺は思った。修理代が千円としても彼女達にしてみれば八千円に感じるだろう。人件費が高い日本人価格だから。
たまたま乗ったら、壊れる寸前だった自転車。パンクしてしまった。
誰が直すもんか。乗ったタイミングが悪かっただけなのに。

俺は2、3年生が気の毒になった。俺だって直すもんか。会社の備品じゃないか。
何故会社が直さないんだ。俺は治郎さんを憎みはしなかったが、悲しくなった。

自転車を調べてみると、殆んどタイヤのバルブの虫ゴムが劣化しているだけだった。安い物だったので、日曜大工センターで50センチ程買ってきて、カットして取り付けた。
勿論代金の請求は会社にしなかった。どうせイヤミを言われるだけだったから。

(及川は中国人が好きだから)

例の組合から持ち出した自転車もここに置かれることになった。
空気を入れれば殆んど問題なかった。後輪の泥除けカバーに丸三縫製㈱と白マジックで書き、その上に車両番号を順番に付けた。そしてそれぞれの鍵にも番号札をつけた。

治郎さんに報告すると、研修生に鍵を渡して良いといった。
俺はグループ名簿に従い、自転車の管理台帳を作って、2、3年生に渡した。

次の週から、先輩研修生達の俺を見る目が変わったように感じた。土曜日の夕方は、自転車で出て行く女達が多くみられるようになったからだ。
そして、毎朝、自転車の横をすり抜けながら、台数の確認と空気の入り具合を目で確認するようになった。

あいつらを、何とかしてやりたい。

俺はそんな風に思うようになっていた。
作品名:女子外人寮 作家名:桜田桂馬