勇者の裁判
勇者カイを死刑に処す。
それを聞いたカイは頭を垂れる。傍聴席からは歓喜の渦の中すすり泣く声が聞こえる。おそらく、カイを嘆いているからではない。うれし涙だろう。
裁判長はコンコンと鳴らし、「静粛に」と言い放ち、主文内容を続けた。
「本被告は勇者と言う立場を利用し、他人の家に土足で入り込み金品を奪う事数知れず。時に破壊活動をし、その損害たるや計り知れない賠償額に達する。人々を勇者の武器と称し刀や剣を振り回し、動物虐待を繰り返していた事実も情状の余地なしと認める。そして魔王と闘うと言う大義名分により徒党を組み、さらにその仲間に対しても人的権利を有せず、金品を巻き上げ、至福の限りを尽くした罪は到底逃れるべきことではない。よってすべての罪を償うのに死刑と言う判決に何人ともその判断にゆるぎないと確信するに至った。
よって本件はこれを以って裁判を閉廷する。裁判長デュエール」
カイは黙ってその言葉を噛みしめた。
「カイさん。これで終わりましたが、何か言う事ございますか」
「はい。私はこの世界の平和の為に尽力しました。なのに。この仕打ちは全くを以って不当であると思うのです。私は魔王を倒した。そしてこの世界を平和にした。なのに。なぜです。なぜ私だけがこんな目に遭うんです」
デュエールはカイの眼差しをじっと見つめる。
「カイさん。いいですか?平和、平和って言いますけど。どこが平和になったのです。見てください。巷では強盗や殺人が頻繁に起きてます。それでもあなたは平和と言えますか?それになんですか?魔王?魔王ってどこにいらっしゃるんです。あなたの殺したのはこの国の国王ですよ。確かに国王は非情な方でした。だけどだからと言って殺してはいけません。そうでしょう」
カイはそれを黙って見つめ、やがて重たい口を開いた
「じゃあ。どうすればよかったんですか」
「勇者などにならなければよかったんじゃないですか」
あまりに冷たいその言葉にカイはすべてを信じられなくなった。
コンコン
「これにて閉廷します。控訴は1週間以内にお願いします」
それだけを言い、慇懃にデュエールは裁判所を後にした。
カイは警護の者に肩をあげられ牢屋へと向かう。
冷たい石畳の牢屋の中、カイは一人淋しく泣いた。
「こんな牢屋。私の魔法で粉々にできる」ポツリそうつぶやくと
牢屋はまるで積み木崩しにあったように建物全体が壊れた。
駆け付けた警備員が私を取り押さえる。
「お前ら。ただですむなよ」と凄んでみせると、一瞬、警備員のもつ手が緩んだ。
その一瞬をついて逃げようとしたが、力が抜けるような感覚に襲われ、その場から動けなくなった。カイの眼前に現れた黒い影。それを見るためにかすかに動く頭を上げた。
「お、お前・・・」
その目の前に立っていたのはデュエールだ。
その姿はまるで魔王の出で立ち。そして皆ひれ伏す。
「あああ・・・邪魔なんですよね。お宅。さすがに大人しく死んでくれないわけですね。残念ですよ」と言うと足でカイの頭を踏む。
「ギャア」と叫ぶまもなくカイの頭は粉々になった。
了