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喪失

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どれだけ目の前が見えなくなっただろうか
体から力が抜け、心がいつの間にか宙に浮かんでいる
何かに心を奪われたというより
自分で心を捨てたという感覚の方がよく表現している
そして意識をほとんど持たない体が不意に
痙攣を起こし始める

怯えや怖れではなく弱々しい怒りだ
体は理由もなく心を軽蔑する
拒絶反応を起こし、不調和な心を体から引き剥がす
その一瞬で痛みが感じなくなる
臆病な心は戻るべき場所を失い
遂に迷子になる

誰にも必要とされないから
誰もいない世界へ逃げ込む
目の前の世界を呆然と眺め続けるが
何も理解できない、あるいは考えようとしない
一人ぼっちでいるのが寂しくて、退屈で
やがて眠りにつく

だけど深い眠りに身を預けることはできなくて
今まで無視をしていた音楽が再び聞こえてくる
鼓膜が破れそうだから耳を塞ぎ、膝に顔を埋めるが
閉じたはずの目蓋の裏側には妙に鮮明な映像が流れだす
急に感じだす苦痛に悶えて必死に叫ぶが
声は一切出てくれない

抜け殻になってしまった体は
「どうして…」とつぶやき
失った心に思いを馳せるが
また沸々と怒りが込み上げてくる
作品名:喪失 作家名:永倉杏慈