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誰もお前のために書いていない

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落ち込んでいる時、自信を無くした時、弱気な時、私は小説の文庫本を手に取りその作品の世界へ入り込む。
暫しの現実逃避。
私の場合、夢の中でも現実が現れてしまうので、現実逃避の可能な場所は小説の世界に限られてしまう。
 私の掌の中で、物語が繰り広げられる。
甘いラブストーリー、切ない物語、蠱惑的な官能の世界……
本を読んでいる時間をもっと有効的に使えないものか?
仕事を自宅でリフレインする?スキルアップのため資格の勉強をする?積極的な交友関係を築き上げていく?どれも性に合わない。元来、物臭で内向的にできている。結局は文庫本を手に取る。
小説を読んだからと言って、何が身に付いた訳では無い。読んだ本の題名と作家の名前ぐらいはどうにか思い出せるが、殆どのストーリーは右から左へと流れ去っていく。
ページをめくる度に、時間を浪費する。
最近読んだ本に、寿命で考えると人生の折り返し地点が37歳だったか38歳だったか言っている本があった。自分が正にその歳である。
これからも、自分の寿命が尽きるまで、小説家が作り上げた作品を手に取る毎日が続くのか?子供が少しでも綺麗な落ち葉や木の実を拾い集めるように、私は少しでも綺麗な小説を手に取ろうとするのか?水もやらず、肥料もやらず、落ち葉だけを拾いあつめるのか?
本当は何も拾い上げられていない。何も自分の身にはなっていない。時間の浪費。
働いている時間、食事や風呂の時間、睡眠の時間……最後に余った時間で文庫本を手に取る、寿命が尽きるまでの時間潰し、まるで、乗船開始のアナウンスを待つフェリーターミナルでの時間潰しのように、何の意味も持たない事をしているのか?
こんな読者が作家には一番迷惑な読者ではないだろうか?
「誰もお前のために書いていない」ってそろそろ言われそうな気がしてきた。