君の歌が聞こえる
真夏の真昼。太陽がギラギラと輝く。
〈鼻歌がきこえる〉
(陽炎で)ゆらゆらとゆれてみえる歩道橋の地面。
その地面をタンタンと蹴り、スキップする少女の姿。
(スキップしながら笑顔で)鼻歌をうたっている。
歩道橋の下り階段手前で立ち止まる。
少女の目先には大きな木が立っている。
木には赤い風船が引っかかっていて、ゆらゆらと揺れている。
少女は赤い風船に興味を持つ。目をキラキラと輝かせながら。
風船を取ろうと手を伸ばす。しかし、届かない。
諦めず手を伸ばし続ける。
届きそうになく、悔しそうな顔をする。
ジャンプして歩道橋の手すりに乗り、身を乗り出す。
そして、必死に手を伸ばす。
強い風が吹き、髪がなびく。
乗り出しすぎて、転落する。
一瞬、少女の体が木に触れ、
木に引っ掛かった風船は反動でほどける。
するすると上がっていく風船。
風船が木の枝にあたり、
『パンッ』とわれる。
<章=2 主人公の家・部屋/ベッド(朝)>
暗闇(声:起きてっ! 起きてよ! もう!)
目をわずかにあける。ぼやけて見えるヒロイン。
揺さぶられる主人公(寝間着)。
ヒロイン(私服)が部屋のカーテンを開け、窓を開ける音。
太陽の光が目に入り、眩しそうな顔をする主人公。
時計を見る。朝の9時ジャスト。
タオルケットの端をもって、まるまる。
亮「おう、綾香……。んじゃ、おやすみなさい」
綾香「(声)何言ってんのよ! もう起きなさい!」
とタオルケットを引っ張る綾香。
綾香「いつまで寝てるの? もう夏休み終盤よ?」
タオルケットを引っ張り返す亮。
亮「夏休みだからだろ? 普通のこと言わせるなよ〜」
綾香とのタオルケットの奪い合いで負け、タオルケットを奪われる。
悔しそうな顔をする亮に対し、ドヤ顔をする綾香。
仕方なく亮は起きる。
窓から風が入ってきて、綾香の髪が揺れる。
綾香から良い香りがすることに気がつく亮。
亮「ん? なんかさ、綾香……。とても言いにくいんだけど。今日さ、いつもより良
い匂いがするな」
顔が真っ赤になり、うろたえる綾香。
綾香「(恥ずかしそうに)何言ってるのよ。バッカじゃないの。べ、別にアンタの為に香
水とかつけてるわけじゃないんだからね!」
唖然とする亮。頭を掻きながら申し訳なさそうな顔をする。
亮「大変申し訳ないんだけど……。お前の体臭の事じゃないよ? 服からいい匂いが
するっていうかさ」
さらに真っ赤になり、怒る綾香。
亮に拳骨を食らわす。
綾香「アンタねぇ。いい加減にしなさいよ! それはファブリーズの匂い! 朝ご飯作
ってあげたんだから、さっさと起きて!」
亮はのんびりと起き、頭をさすり、痛そうな顔をする。
亮「っていうか、綾香って香水つけてたんだな」
真っ赤な顔のまま、怒りマックス。
拳を振り上げ、亮に拳を叩きつけようとする。
綾香「もういいじゃない! 年頃の女の子は香水くらいつけるのよ! ええ、そうよ。
どうせ私からは変な匂いしかしませんよ! もう帰る!」
拳をなおし、部屋から出ようとする。
亮はさっと起き、寝間着のまま綾香についていく。
部屋の片隅に置いてある写真立て(亮と綾香のツーショット写真)。
ドアがゆっくりと閉まる。
『バタンッ』