走、いや、爽
子供のころから流れる風をきるのが大好きだった。なにもかも思い通りになるような気がしていた。自然すら自分が操っているような感覚におぼれていた。当然部活は陸上部に入った。思い通りにいかないことがたくさんある世界の中で陸上だけが、いや、走ることだけが味方だった。毎日ただひたすら走った。
子供のころから病弱で走ることを許されなかった。なにもかもが思い通りにならなかった。世界に俺は操られているような感覚におぼれていた。当然陸上部に入ることは反対された。思い通りにいかなかった人生の中で陸上だけは、いや走ることだけはゆずれなかった。無断でただひたすら走った。
いつからであろうか。俺の必至な姿に誰もが応援してくれるようになった。パチパチと拍手までして。いつからであろうか。風をきりながらいろんなことを考えるようになったのは。ヒュンヒュンと走馬灯が駆ける。いつからであろうか。いつからであろうか。
いつからであろうか。雨粒が拍手する。チッチッと小さな音で。いつからであろうか。風をきって走っているのは。ゴーゴーと風をきる。いつからであろうか。心臓が応援している。ドドッドドッと太鼓をたたく。いつからであろうか。背中を見据えているのは。トットットと近づく。いつからであろうか。俺が走っているのは。わからない。
「爽快」である。わかることはただ唯一だ。