料理に恋して/カレー編
A1
大学に芸術学部はなかった。
うちはポカンとした。
「料理部ないのねぇ」
昔ながらの法学部や文学部、
時代に合わせた総合情報学部、
政策創造学部が新設されても、
料理部はなかった。
サークルなんかじゃなく、
学部としての料理学部。
元々、ポカンとしてるし、
「うち」
「チャンスかも」
やっぱ、この大学を選んで、
「よかったぁ」
尻尾が生えそうで、
昨日から、お尻がうずうず。
「もとい、むずむず」
*
新入生の勧誘がそこかしこで
賑やかに繰り広げられてる。
まるで、お祭りのように
ごった返している。
うちの横を掛け声で
ランニングしてる体育会系。
女子空手部。
「わ、カッコいい」
道着姿がいい。
一列に並んで、
デモンストレーションが
始まっていた。
次の集団に、うちは
くるりと背を向ける。
生唾をごっくん。
もう一度、ごっくん。
「(体育会系の料理部ぅ?)」
揃いのTシャツに
お玉やフライパンの
デザインが躍っている。
2
「性格、強くなりそう」
あの人らといたら――。
うちはふわふわする。
高校時代のあだ名は風船だった。
「風船って、つなぎ止めておく糸を
欲してるものなのよ、中浜ぁ」
と言われたのは加奈子から。
その加奈子がいち早く、
体育会系料理部に入っていた。
「その内、筋肉質で
小難しい料理を作りそう」
うちは抜き足差し足になる。
*
苦手だった。
なのに、
エジプト生まれの加奈子は
「よ、子供体型。暇潰しだ」
と言っては度々寄ってくる。
大学では係わらないでおこう。
文学部への坂道、
両側が桜で満開のスロープを
うちは味わうように
ゆっくりゆっくり歩む。
頭皮まで暖かい。
見上げる日差しが
超気持ちいい。
立ち止まっては
ケータイで写真に撮る。
3
カシャというシャッター音。
うちがケータイで
写真に撮られていた。
「勝手に撮るな」
と笑おうか、怒ろうか。
結構、イケメン。
ナンパかサークルの勧誘?
何人かの女子まで、
うちを撮ってる?
うちって、そんなに有名?
自分で首を激しく振る。
脱皮しそうなほど――。
うちの横にはテレビで見慣れた、
フィギュアスケートの女の子、
「すけりん」
偶然、並んで歩いていたみたいで、
うちは半歩、横に近付き、
Vサイン。
友達面してしまう。
この四月から、同じ大学なのを
うちは忘れていた。
取り囲まれた観客から、
「横の子、誰?」
って顔をされてしまう。
4
〈幽霊話より怖いぞー〉
非正規雇用の末路って、
趣旨の講演のチラシの横、
うちは掲示板に貼る。
〈料理が好きな人を求む〉
その旨はこうだった。
ファンドで出資金を募り、
関大料理学部を作る。
アルバイトじゃなくて、
みんなで作るお店、
じゃなくて、
学部としての料理部をイメージ。
「お店は実習の場」
〈料理が好きな人を求む〉
うちは掲示板の前の
芝生に横たわっては
読む人を待つ。
うつらうつら。
急降下のトンビに
せっかくの夢をさらわれる。
追っ掛けようと思いつくまで、
時間の掛かるうち。
5
「ふわふわイメージだけど、
中浜って結構、
ちゃっかりしてるもんねぇ」
苦手な加奈子が寄ってくる。
苦手だと知ってて、寄ってくる。
「お惚けキャラの不思議ちゃん、
なのに結構、計算してるのよねぇ」
エジプト生まれなのに、
エジプト人じゃない加奈子。
うちはどんな顔を
すればいいのか困る。
「よ、無視しないでよ」
「してないけど」
「でも、したそうじゃない?」
うちの戸惑う時間と
加奈子の詰め寄ってくる間に、
つむじ風が起こる。
大学に芸術学部はなかった。
うちはポカンとした。
「料理部ないのねぇ」
昔ながらの法学部や文学部、
時代に合わせた総合情報学部、
政策創造学部が新設されても、
料理部はなかった。
サークルなんかじゃなく、
学部としての料理学部。
元々、ポカンとしてるし、
「うち」
「チャンスかも」
やっぱ、この大学を選んで、
「よかったぁ」
尻尾が生えそうで、
昨日から、お尻がうずうず。
「もとい、むずむず」
*
新入生の勧誘がそこかしこで
賑やかに繰り広げられてる。
まるで、お祭りのように
ごった返している。
うちの横を掛け声で
ランニングしてる体育会系。
女子空手部。
「わ、カッコいい」
道着姿がいい。
一列に並んで、
デモンストレーションが
始まっていた。
次の集団に、うちは
くるりと背を向ける。
生唾をごっくん。
もう一度、ごっくん。
「(体育会系の料理部ぅ?)」
揃いのTシャツに
お玉やフライパンの
デザインが躍っている。
2
「性格、強くなりそう」
あの人らといたら――。
うちはふわふわする。
高校時代のあだ名は風船だった。
「風船って、つなぎ止めておく糸を
欲してるものなのよ、中浜ぁ」
と言われたのは加奈子から。
その加奈子がいち早く、
体育会系料理部に入っていた。
「その内、筋肉質で
小難しい料理を作りそう」
うちは抜き足差し足になる。
*
苦手だった。
なのに、
エジプト生まれの加奈子は
「よ、子供体型。暇潰しだ」
と言っては度々寄ってくる。
大学では係わらないでおこう。
文学部への坂道、
両側が桜で満開のスロープを
うちは味わうように
ゆっくりゆっくり歩む。
頭皮まで暖かい。
見上げる日差しが
超気持ちいい。
立ち止まっては
ケータイで写真に撮る。
3
カシャというシャッター音。
うちがケータイで
写真に撮られていた。
「勝手に撮るな」
と笑おうか、怒ろうか。
結構、イケメン。
ナンパかサークルの勧誘?
何人かの女子まで、
うちを撮ってる?
うちって、そんなに有名?
自分で首を激しく振る。
脱皮しそうなほど――。
うちの横にはテレビで見慣れた、
フィギュアスケートの女の子、
「すけりん」
偶然、並んで歩いていたみたいで、
うちは半歩、横に近付き、
Vサイン。
友達面してしまう。
この四月から、同じ大学なのを
うちは忘れていた。
取り囲まれた観客から、
「横の子、誰?」
って顔をされてしまう。
4
〈幽霊話より怖いぞー〉
非正規雇用の末路って、
趣旨の講演のチラシの横、
うちは掲示板に貼る。
〈料理が好きな人を求む〉
その旨はこうだった。
ファンドで出資金を募り、
関大料理学部を作る。
アルバイトじゃなくて、
みんなで作るお店、
じゃなくて、
学部としての料理部をイメージ。
「お店は実習の場」
〈料理が好きな人を求む〉
うちは掲示板の前の
芝生に横たわっては
読む人を待つ。
うつらうつら。
急降下のトンビに
せっかくの夢をさらわれる。
追っ掛けようと思いつくまで、
時間の掛かるうち。
5
「ふわふわイメージだけど、
中浜って結構、
ちゃっかりしてるもんねぇ」
苦手な加奈子が寄ってくる。
苦手だと知ってて、寄ってくる。
「お惚けキャラの不思議ちゃん、
なのに結構、計算してるのよねぇ」
エジプト生まれなのに、
エジプト人じゃない加奈子。
うちはどんな顔を
すればいいのか困る。
「よ、無視しないでよ」
「してないけど」
「でも、したそうじゃない?」
うちの戸惑う時間と
加奈子の詰め寄ってくる間に、
つむじ風が起こる。
作品名:料理に恋して/カレー編 作家名:紺や熊の