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真朱@博士の角砂糖
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novelistID. 47038
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サンキュー、マイガール

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サンキュー、マイガール

僕たち、何度いっしょに春を過ごしたかな。
「もう春だねぇ」
「ほんとだねぇ」
そんな冬の終わりのお決まりのやりとりが、僕はとても好きだった。
春が来たら君はどこかへ行ってしまうのではないかと、ずっと思っていた。
予感していて、だから、備えていたよ。
君に春が来ませんように。
心のどこかでそう願っていたんだ。
そんなことをしていたせいで、春は僕にも訪れない。
君と一緒に、いくつの春を見たんだっけ。
名前ばかり立派な、薄桃色のあの季節。
もうすぐ春が、やってくる。
本物の春が、やってくる。君に。
「もう春だねぇ」
道路を駆ける雪解け水を見て君が言った。
「ほんとだねぇ」
僕が答えると、君は春風みたいな音をたてて息を吸った。
「私ね、この町を出るよ」
チューリップみたいな声だった。
僕は冬眠したクマみたいに黙って、それから寝言みたいに答えた。
「うん」
どっちが泣くのが正しかったんだろう。でも、泣いたのは君だった。
毎日のように言っていた、なんてことない、ただの「じゃあ、またね」が言えない。
気持ちは全部泡になって、口から吐くとすぐシャボン玉みたいに割れてしまう。
その中のひとつに、今日もあの言葉が混ざっていたんだろうな。
また、言えなかった。
ねぇ、泣かないで。
いますぐ笑って。
「大丈夫、すぐ会いに行くよ」
君のその涙に名前をつけよう。
忘れないように。
君に出会ったあの日にも、名前をつけよう。
忘れないように。
ああ、今夜は、今夜だけは、よく眠れそうです。
今ならまだ間に合うはず。
僕も、春へ向かう夜汽車に飛び乗ろう。
そして君に追いついて、きっと伝えるんだ。
サンキューって。



(終)