君と僕の宝物
あらすじ
主人公、久高颯太は一つ年下の宮原理恵と付き合うことになって三か月。
いつものように放課後、彼女がピアノを弾くために使っている第二音楽室で二人の時間を過ごしている時の事。
ふとピアノを弾いている理恵に颯太は何気ない質問をする。
そして、彼女の優しくも愛おしい気持ちを知ることになる……。
主人公 久高颯汰(くだか そうた)
母親の転勤で沖縄に移住する事になった高校二年生。
外見は普通の子、根は真面目で優しい子ではあるが時々、冷めているように見られる事がある。
ヒロイン 宮原理惠(みやはら りえ)
高校一年生。
端正な顔立ち、腰まで届く長い黒髪が特徴。
外見はパッと見、少しキツそうに見え。颯太には口調もたまにキツくなるが性格は真面目で優しい。
ピアノを幼少の頃から習い事としてやっている。
ピアノの旋律だけがこの教室に響いている。
僕の彼女、宮原理恵と付き合いだして三か月。
最初のきっかけは僕がたまたま聞こえてきたピアノの音が気になり、音をたどってこの第二音楽室という教室にたどり着いたのがきっかけだった。
出会ってすぐの理恵の印象はとても綺麗だった。
理恵は音楽がまるで素人の僕でも分かる位、ピアノが上手で。そのピアノを弾く姿に一目惚れしたのかもしれない。
今では僕の彼女だけど、正直、お似合いのカップルかと聞かれると自信はない。
けど、彼女は僕の隣で今日もあの時と同じ曲を弾いている。
「前から聞こうと思ってたんだけどさ…」
僕は弾いている途中の彼女に話しかける。
「うん」
「その曲って誰が作った曲なの? 」
「これ?知りたい? 」
曲の途中でピアノを弾くのを止めて僕に顔を向ける。
「うん、CDとかで音源があるならちゃんと聞いてみようかなって」
「なんで、CDとかなの?いつも隣で弾いてるじゃん」
少し口を尖らせながら理恵は言う。
「いや、そうなんだけどさ。ちょっと…。いや、やっぱり何でもない」
「何?気になるから言って」
「…笑わない?」
僕は少し恥ずかしくなって理恵の顔から視線を逸らす。
「笑わない」
それでも理恵は真剣な表情こっちを見て言う。
「…会えなくて寂しくなったら聞いて紛らわそうかと…」
言ってて恥ずかしくなってしまったので、完全に彼女から視線を外す。
「…ふふっ」
「あ、笑わないって言ったのに」
「だって、颯太が可愛くて」
口に手を当て少し笑いながら理恵は続ける。
「これね、オリジナルなの。だから、CDとかにはないよ」
「オリジナルって作ったの!?」
「うん、中学生の頃にね。ピアノの発表会に出るときに作ったの」
「すごいね、それ」
「すごくないよ。全然、上手くないし」
理恵は少し照れくさそうにピアノへと視線を向ける。
「でも、この曲のおかげで今があるからこの曲が好きなの」
理恵はピアノに微笑みながら言う。
「何で?」
「だって、この曲のおかげで颯太に会えたから。この曲を作って良かったって。今でも、覚えてる。この曲を聴いて颯太があのドアを開けた日の事」
理恵は教室のドアに視線を向ける。
「…」
「最初はこの人、変な人かもとか思ったけど」
「おいおい…」
へへっと舌を少し出しながら理恵は笑う。
「でも、純粋にこの曲を聴いてくれて、颯太は褒めてくれた」
出会ったあの日、僕は理恵を一目見た瞬間から恋に落ちていた。
長く腰まである綺麗な黒髪を少し揺らしながら、ピアノに向かっている理恵の姿を僕は覚えている。
「だから、この曲は私にとって宝物なの」
そう言って、微笑む彼女の顔に僕は手を当てる。
「?」
理恵は少し驚きながらも僕の目をじっと見つめる
「僕にとっても宝物だよ。この曲も…、理恵も」
そして、僕は彼女に顔を近づける。
彼女も目を閉じて、僕を受け入れてくれる。
何度となく繰り返してきたキスだけど、それでも今、この瞬間からのキスは僕達にとって宝物なのかもしれない。