スケッチ
濃い紫地にオレンジとアクアブルーのチェック柄。
吉田好みのブランドの新作を押さえているのはさすがだった。
以前、制服に合わせるネクタイを新調したいと漏らしたのを覚えていたのだろうか。
「ありがとうー! すごくかわいい。大事にする」
「よろこんでもらえたと思っていいのかな」
井上はにっこりと笑って言う。
「めずらしい色合いでしょ。紺のブレザーにも合うし、だれともかぶらないから制服のアレンジに素敵だなと思って」
「ふふ、井上らしいセレクト。大好き」
手にしたネクタイを軽く首に掛けるやいなや、吉田はベッドの上に軽く腰掛けていた井上に飛びつかんばかりに抱き付いた。はずみで、そのまま後ろへ倒れ込む井上。
「押し倒されちゃった」
「押し倒しちゃったー」
まるで語尾にハートマークが見えるようで、満面の笑みを浮かべる吉田に井上はやっと安堵した。
――何度贈っても、開封されるその瞬間の緊張は変わらない。
結局は見られてしまうものなのに、決して中身が見えないよう綺麗にラッピングして、リボンをかけて飾りつける。
何もかも知り尽くした間柄だと思っていても、時折思わぬ中身がこぼれ出てくることもあるものだ――
緊張はすれど、このやりとりが続く限りは自分たちの関係は続くのだと、再確認できる貴重な儀式。
だから、手は抜かない。
吉田の下になったまま、首に掛けたネクタイをつかんで、手前に引く。
ぐいと勢いよく近づけられた恋人の顔を避け、耳元に唇を寄せた。
「知っている? ドイツではネクタイのプレゼントって、『あなたに首ったけ』って意味があるんだよ」
「なにそれ。そういうきざな台詞も含めてプレゼントだって言うつもり?」
「あれ、やっぱりちょっとクサかったか」
わずかに起こし気味にした首の力を抜いて、どさりとベッドのスプリングに頭を預ける。何気なく目を閉じた瞬間に、吉田の唇が重なって、贈り物の生地の端が首筋を撫でた。