リルカルテット
蒼い、蒼いその目を哀しげにふせて
狂おしいほどに溢れる後悔の念と闘っていました。
これはとてもとても大切なものだったはずなのです。
彼女はもう既に両親と呼べる人間を亡くしていました。
祖母と祖父、そして大切な家族とも呼べる愛玩動物たちと
穏やかな毎日を過ごす、そんな日々です。
ですが、彼女はたくさんの想い出をもっていました。
優しい母様の手が髪を梳く感触。
優しい父様の声が名を呼ぶ温もり。
そんな些細なことさえも総て、ちゃあんと忘れずにいるのです。
だから、寂しくなんてありません。
そんなことを思う方がおかしいくらいなのです。
けれど、今回ばかりはそんな彼女も寂しくて寂しくて哀しくて
どうしようもないのです。
だって壊れてしまったんですもの。
大切な大切なお人形が。
「ごめんなさい。」
誰への謝罪でしょう。
この人形を買ってくれた両親?
壊してしまった自分自身?
それとも愛しいお人形?
誰にそんなことが分かるのでしょう。
彼女の痛みを哀しみを、誰が受け止めてあげられるのでしょう。
少なくとも、彼女はそんなことを求めてはいないのです。
壊れてしまったお人形の髪を彼女は優しく優しく梳きました。
あの日、母がそうしてくれたように。
壊れてしまったお人形の名を彼女は優しく優しく呼びました。
あの日、父がそうしてくれたように。
「 、ごめんなさい。」
ふせた瞳からはもう光は見えず
けれど彼女はもうすぐに
強く立ち上がることでしょう。
だって彼女はそうあるべきなのですから。
零れた涙もいつかは乾くから
哀しみになど浸ってはいられないのです。
そういって笑う彼女は
強く強く、誰よりも気高いのでありましょう。