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無未河 大智/TTjr
無未河 大智/TTjr
novelistID. 26082
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D.C.IIISS ~ダ・カーポIIISS~

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After da capo:Endless memory 忘れてはいけない記憶





 結局、俺達ではカレンさんを撃った男を捕まえることはできなかった。
 あの後、あの場に残った魔法的痕跡を専門家が調べた結果、あの時撃たれた弾丸に込められたモノは、負の思いの力と禁呪だった。
 禁呪については教えてもらえなかったが、それでも、ある程度の理由がわかったからよしとする。
 ……それよりもだ。
 俺達が犯人確保を杉並に依頼した後、ユーリさん達を探して風見鶏に戻った。そして湖に浮かぶ孤島の一つで、ユーリさん達は見つかった。
「リッカさん!あれ……」
「ユーリ……!」
 俺達が見たもの。それは桜の木を背に腰掛け、カレンさんを抱いて泣き叫ぶユーリさんの姿だった。
「行きましょう」
 俺はすぐに駆け出そうとした。しかしそれは叶わなかった。走り出す前にリッカさんに腕を掴まれた。そして彼女は首を振った。
「このままにしておきましょう。この様子だと、多分カレンは……」
 その瞬間俺は理解した。カレンさんはすでに死んでいるのだと。俺はそこを動くことができなかった。



   ◆   ◆   ◆



 結局、杉並達の力を以ってしても犯人は捕まらなかったらしい。今も非公式新聞部の力を動員して捜索しているらしいが、もう国外に逃げたと俺は思う。
 別に復讐したいとか、そういうことを考えているわけではない。ただ、理由が聞きたかっただけだ。
 あれから一ヶ月ほど、俺はほぼ無気力に過ごしていた。心にぽっかりと、大きな穴が開いた感覚がしていた。
 無理もない。大事な人を失ってしまったのだ。
 エリーは、俺にしばらく休むようにといってくれた。だがそうはいかない。俺は無理をおしてでも風見鶏へ出ていた。
「おーし、手を止めろ。そして回収して来い」
 今は学年末試験期間、その最終日だ。これが終われば今年最後の選挙がある。そのあと俺達は卒業だ。
 ちなみに本科二年は一週間前に終わっており、俺に関しては就職先も決まっている。宮廷魔法士、それが俺の卒業後の進路だ。宮廷魔法士になって、エリーの警護をしつつ非公式新聞部で俺自身にかけられている禁呪を解呪する方法を探るのだ。
 俺は皆が回収してきた答案を数える。
 ……あれっ、一枚足りな……あっ、そうか。カレンは、もういないんだった……。
「よし、じゃあ解散。お疲れ様」
 俺が号令をかけると皆一目散に教室を出て行く。あとは、これを職員室に持っていってギャリソン先生に渡すだけだな。
 そう思い、教壇から離れようとした時だ。
「ユーリさん」
 声が聞こえた。俺は近くの扉を見た。そこに立っていたのはこの国の女王だった。
「エリーか。どうした?」
「いえ。無理をしているのではと思いまして」
「なんだ、そんなことか。俺はぴんぴんしてるぞ」
 俺は立ち上がり、魔術を使ってエリーのところまで空間移動した。
「確かに、元気そうですね。ならば、いいのですが」
「カレンの事でまだ落ち込んでると思ったか?生憎、ちょっと 引きずってはいるものの、大体整理出来たよ」
「……カレンさんの事、忘れてしまうのですか?」
 エリーは神妙そうな面持ちで俺に訊く。だが俺は呆れた顔で返した。
「いや、そんな事はしない。ただ、今はやることがいっぱいだから、心の隅っこに置いておくだけだ。そんでもって、またあいつを探す。次に出会うときまで、忘れないようにしないとな」
 ……いや、忘れるはずがない。俺が生涯で唯一愛した女だ。忘れたくとも忘れないだろうさ。
「……そうですか。それなら安心ですね」
 エリーは俺の意図を汲み取ったのか、微笑んで頷いた。
「……険しい道程だと思いますが、頑張ってくださいね」
「……ああ」
 俺はもう一度、覚悟を決めるのだった。
「……というか、早くそれを持って行かないと」
「お前が引き止めたんだろ……」
 ……やることは、いっぱいありそうだ。



   ◆   ◆   ◆



 カレンの墓は地上にある。
 俺はリリーの花を持ってそこを訪れた。墓には似合わないだろうが、カレンが好きだった花だ。供えても罰は当たるまい。
 ……ちなみに、何故この花が好きだったかというと。
『真っ白い花が私は大好きなんです。それに、この花日本の言葉で"ユリ"って言うらしいんです』
 ……つまり、俺の名前に似ているからだそうだ。後半は後付けな気がするがまあいい。恋人として悪くはない気分だった。
 ……そういえば、アルトとジョージのところを訪れた時、そんなに責められなかったな。逆に、カレンはどんな風に過ごしていたのかなどを根掘り葉掘り聞かれた。
 俺が何故責めないのか、と聞いたら。
『貴方は私たちの手の届かない間、幾度もカレンを守ってくれていた。それを忘れて、たった一度守れなかった、というだけで貴方を責めるのはおかしいだろう』
『確かに、娘のカレンが死んでしまったことは悲しい。それでも、今まで娘を守ってくれていた貴方を責めるのは筋違いというものだ』
 ……とのことだ。なんて出来た祖父と父親だろうか。俺が侵したミスを彼等は許してくれたのだ。二人の兄も同じような事を言っていた。
 ……もっとも、定期的に訪れてカレンの話をしてほしいというのが彼等家族の願いだったのだが。それくらいならお安いご用だった。今日も、その帰りにこうしてカレンの墓へ寄ったのだが。
 ちなみに、彼女の墓は彼女だけのモノではない。すでに亡くなっている彼女の義理の母の物と一緒だ。この点でも、カレンが家族から愛されていたというのがわかる。また母親とも仲がよかったと聞いているので、彼女も母も幸せだろう。
 俺は百合の花を供え、しゃがみ込んで祈りを捧げる。
 カレン、昨日選挙が終わったよ。新しい役員は、メアリー・ホームズに決まったよ。それと次の会長はお前と特別仲のよかったチェルシーに決まったよ。彼女は割と仕事が出来ていたし、満場一致で決定だったな。ただ彼女自身、『カレンがいないから、ちょっと頑張れるか心配ですけど……』って、言ってたな。それだけお前は信頼されていたんだな。
 それと最後に。俺は昨日風見鶏を卒業したよ。来月から宮廷魔術師として、エリーの下で働くことになる。だからあんまり来れなくなるよ。……それでも、怒らないでくれよ。
 俺は思いの丈を今は亡き愛する人に告げると、花束だけを残し、その場を去った。
 きっとまた来るから。それだけ残して。



   ◆   ◆   ◆



 十数年後。
「私は、隠居します!」
 ………………。
 俺は眉間にシワを寄せてもう一度訊く。
「なんだって?もう一回言ってみろ」
 今は公務中ではない。流石に公務中ならば敬語を使うが、プライベートならばそんな事はしない。
 そんなプライベートの中での事だった。
「ですから、私は隠居して、次の女王に全てを継がせます」
「……マジで言ってんのか?」
「ええ。大マジです」
 ……まったく、エリーの突拍子もない発言には慣れたと思っていたが、まさかこんなのが来るとはな。十年くらい前に清隆と一緒に日本へ旅立ったリッカに教えたら絶対腰抜かすよな……。
 俺はため息をつき、そして言った。
「……わかったよ。面倒な事はこっちでやるから、何処で隠居したいか決めろ」