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無未河 大智/TTjr
無未河 大智/TTjr
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D.C.IIISS ~ダ・カーポIIISS~

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Interval:April 30th ワルプルギスの夜



 四月三十日。
 あれから一ヶ月ほどが過ぎた。俺達は、今日も忙しく動いていた。
 今日はワルプルギスの夜。それから先の、いつかに待っているウィザリカの反乱。
 俺達に休む暇などほとんどなかった。
「ユーリ、今日の調査結果」
「あいよ」
 リッカが俺に書類を渡す。このように書類にまとめてくれるだけマシなのだが―。
「……もうちょっと読みやすく書いてくれ」
「嫌よ、かったるい」
このミス・かったるいめ。
「まあ知ってたけど」
 俺達は整理に没頭する。カレン、清隆含め、他の生徒会役員達は、今地上で非公式新聞部の面子とともに見回りをしているはずだ。といっても、非公式新聞部から参加しているのは杉並と葵だけだが。
「……流石に、書類整理して待つだけっていうのもなかなかかったるいわね……」
「それな。仕方ないっちゃ仕方ないが」
 そう。俺達は今、遊撃隊として風見鶏で待機、有事の際に出撃できるようにこうやって書類整理をしている。本格的な仕事は明日からだから、明日からはカレンと清隆には俺達の補佐として加わってもらう事になっている。
「まあ、こんな楽な仕事は今日までだ。明日からは―」
「わかってるわよ」
 ……こういうとき、リッカの察しのいいことは非常に助かる。
 そんな事を考えながら俺は時計を見た。
「……もう十時か。結構仕事してたな」
 流石にカレン達は寮に戻っている事だろう。そんな事考えているうちに。
「ただいま」
「戻ったぞ」
 エリーと杉並が戻ってきた。
「お帰りなさい、どうだった?」
 開口一番にリッカは訊く。
「今日も異常は無し。やっぱり明日からが本番ね」
「陛下、やはり陛下御自身がフィールドワークに出る必要はないかと」
「あら、国民がどんな生活をしているのかを観るのもクイーンの仕事だと思うけど?」
 ……どうやら杉並はエリーの安全を思って言ったようだが、エリーの方が一枚上手だったようだ。
「……そういえば、葵は?」
 俺は一つ違和感に気づき、二人に訊いた。
「葵さんは、なにか用事があると言ってまだ地上に残っているけど……」
 ……ふむ、なるほど。
「ちょっと俺も用事思い出したわ。悪いが戸締まりとかよろしく」
 俺は自分のに持つを持って生徒会室をあとにする。
「……用事って何なのかしら」
「さあ、な」
「まあ、たいしたことはないと思うわ」
「……?」
 背中越しにエリーと杉並のとぼけた声が聞こえたが、俺は気にしなかった。理由は、分かっていた。





 午後十一時。
 俺は地上に出ていた。目的地はある公園。そこに葵はいるはずだ。そう考えて俺はそこへ急いだ。案の定彼女はそこにいた。
「よう、葵」
 少女は振り向く。
「ユーリさん……」
 いつものような無駄な元気はなく、静かな足並みでこちらへ寄ってきた。
「どうした、やっぱり心配か?」
「……はい。やっぱり、知っていたんですね」
「まあ、な」
 その顔は普段の彼女からは感じられないような沈み方をしている。
俺は知っている。今日は四月三十日。つまりワルプルギスの夜。それが示すもの、すなわち。
「<永遠に訪れない五月祭>……か」
 人の負の思いの力を吸収する魔法の霧を媒介として発動する禁呪。その効果は、冬の訪れからワルプルギスの夜までの半年間をまるでダ・カーポのように永遠に繰り返すというもの。
 それが行われていた事を俺は知覚していた。
「……まあ、大丈夫だ。お前の体の紋様は消えたんだろう?」
 その術者の体には、魔法陣とは似て非なる紋様が浮かび上がる。俺は直接見たことはないが、葵の体にはそれがあったそうだ。
「はい。でも、心配になるんです。これが夢だったらどうしようとか、そういうことを、考えてしまうんです」
「まあ、わかるさ。俺もそんな時期があったよ」
 禁呪を行使したっていうのは俺も同じだ。その気持ちはよくわかった。
「ですが……」
 葵は少し口をつぐみ、そして言う。
「ですが、清隆さんが助けてくれたから、今私はこうやっていられるんです」
 ………………。
「葵、一つ聞く」
「なんですか?」
「お前、清隆となにかあったか?ループ中に」
「……あはは」
 と、葵は笑ってごまかす。
「……やっぱりあの女たらし、一回ぶちのめさないといけないか」
「止めてあげてくださいよ!清隆さんに記憶は残ってません!」
 まあ、確かにそうなんだが。納得できん。
「まあ、今回はいいや」
 俺はふと思い、時計を確認する。既に時刻は午後十一時五十五分となっていた。
「……そろそろか」
 俺は空を見上げた。何も違和感はない。
 すぅ……っと、息を吸う声が聞こえる。隣を見ると、葵が目をつぶっている。
 恐らく、怖いのだろう。本当にループから脱却出来たのか、などと考えているのだろうか。
 ……実際の話、俺にもループ中の記憶がある。各ウィザリカの所在を突き止めてそれを解体出来たのは、ループしていて時間が多かったおかげなのだが、それでもその期間はあまりに長すぎた。何度も何度も解体する作業を繰り返すうち、俺は何をすればいいのかわからなくなることだってあった。
 そして二月前、ロンドンに戻って感じたことは、以前より霧が減った、ということだった。そして俺は知覚したのだ。この半永続的ループの世界から脱却出来たのだと。
 ロンドンに戻った次の日、俺は宮殿を尋ねた。案の定そこにエリーと杉並はいた。俺は彼等に訊いた。『<永遠に訪れない五月祭>は知っているか?』と。それに二人はほぼ同じ意味の別の言葉で、肯定した。つまり二人もループ中の記憶を継続して持っている。ただ、二人の場合は断片的だった。恐らくループを止める際に行われた出来事に関する事がほとんどであろう。俺や葵みたいにその際中に起こった事すべてを覚えているわけではないだろう。だがそれでも覚えていた。
 杉並の能力は未知数だが、さすがはエリーだと思った。
 ……話が反れてしまったな。
 とにかく、俺は記憶を持っているおかげでループする瞬間に何が起こるかは理解している。その兆候が見られない。それはすなわち。
「……どうやら、ループからは脱却出来たようだな」
「……はい!」
 久しぶりに、彼女が心の底から笑う顔を見た気がした。
 俺の懐中時計は、午前零時を過ぎていた。
 五月が、始まる。新しい世界が、幕を上げた。