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志波 こうすけ
志波 こうすけ
novelistID. 51606
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1.オーダー

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 齢二十四年とちょっとを生きても、こんな郊外の端すれすれにある小さな日系マーケットの、時代にも景気にも見放されたような「旅行会社」という名の人の空いた事務所で、あっけにとられることになるとは僕も、僕のカウンター越しに座っている受付のおばさんも思ってはいなかった。

 そういった所で、個性を発揮してくれるのだ、チェン・フィンという男は。

 「・・・一つ間に席が空くけど?」

 覗き込むように、おばさんが伺う。
 おばさんは悪くない。

 「そうですよ。」
 「えぇーっ!?」

 と声を出すべく出した僕も、悪くない。

 「コイツの隣で十四時間は無理ですよー」と笑いながらいうのだから、苛立つなというほうが無理だろう。
 「いや、そういうことじゃないでしょ!?」
 ”一緒に旅行する”という概念がどう捉えられているのか、そこの確認を”今”するのか?と絶望すら感じる。
 そこをさも平然と、自信満々にチェンは説明する。
 「いや、だって俺すぐにトイレに行きたいし。」

 窓側希望したの俺だもんねー!等と返事をするわけがない。
 「ほかの人が座ったらどうすんだよ!」

 「大丈夫だよ、だれも座りたがらないって。」笑いはまだ含まれている。

 「座ったらどうすんだよ!」

 「大丈夫だって!この時期でしょ?空いてるって。」

 僕が知る限りコイツが最後に日本にいたのは十七年前だ。その間飛行機に乗ったのは三年前に一度バンクーバーへ気がふれたように告白しにいくためだった。
 その時の玉砕さえを忘れたかのような口調に、苛立ちが増す。
 僕という人間は、そうなると匙をなげる。
 だから、僕の思考より早く喉奥から飛び出た台詞は

 「わかった。すみません、それでお願いします。」だった。

 もちろん、フィンの”そうだろう”と物語る勝ち誇った顔を見るのはしゃくだったので、おばさんに話かけたのだった。

 ほんとうにいいの?と確認され、チケットの予約はおさえられた。

  
 
作品名:1.オーダー 作家名:志波 こうすけ