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真朱@博士の角砂糖
真朱@博士の角砂糖
novelistID. 47038
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朱い紅の少年

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街で男を拾った。
男と言うにはあまりにも若い少年だ。
朝から雨だったというのに彼は傘を差していなかった。
ずぶ濡れの彼に、あの時私は何を思ったのだろう。
差し出した傘に一歩足を踏み入れた彼は、水の滴る髪の奥で微かに笑ってみせた。
私は女と同棲する部屋へ彼を招き入れた。
彼の着ていた制服と下着を乾燥機へ、そして彼自身を風呂へ放り込む。
やがて、雨の音にシャワーの音が重なった。
私は煙草に火をつけ紫煙を吐いた。
細かなふたつの水音に、プラスチックの秒針の音が溶ける。
女はまだ帰らない。
彼女が少年を見たら、この部屋で何が起こるだろうか。
誰が死ぬことになるのだろう。
三人とも死ぬかもしれない。
私は二本目の煙草に火をつける。
女はまだ戻らない。
私はまだ死にたくない。
少年だってまだ死にたくないだろうなと思う。
三本目の煙草を灰皿に押し付けたとき、シャワーの音がやんだ。
ほどなくして脱衣所から全裸の少年が現れた。
乾燥機、まだだったから。と彼は言う。
ドライヤーを差し出すと彼は女の化粧台へ座った。
雨の音が熱の風にかき消される。
金色の髪が揺れている。
私は四本目の煙草をくわえた。
おい、何をしているんだ。
私が問うと彼は鏡越しに私を見て微笑んだ。
その口元は見慣れた朱色に艶めいている。
桜色の爪のついた細い指が女のお気に入りの口紅をつまんでいた。
ばれたらどうする。
少年は私の言葉を笑い、化粧台を立った。
白い肢体が私に向かって歩いてくる。
ばれないよ。
少年はそう言って私の頬に手を添えた。
見慣れた朱色が、見たことのない姿をして私に迫る。
初めて紅というものを、いいと思った。
どこか遠い場所で、乾燥機が仕事を終えた音がした。
少年はすっかり紅の取れた唇でにこりと微笑み、顔を離した。
私の首筋と鎖骨を撫でて、背を向ける。
少年は制服を纏うと振り向きもせずに部屋を出て行った。




ねぇ、なんなの?
意地でもキスをさせない私に女はしびれを切らして言った。
その口紅。
私が目をそらして言うと女は眉をひそめた。
なあに?
君にはもっと暗めの赤が似合うと思うんだ。大人っぽいやつ。
いやよ。これ気に入ってるの。
じゃあもう、僕らはキスができない。
いったい、なんなのよ?
私は答えず、女の唇を指でなぞった。



(終)