くらげのかたおもい
僕はここにいるよ、ということさへ本当は知らせずとも良かったはずなのだ。
手を合わせれば、その体温が人としての性がそれを教えてくれている。冷たいシーツに包まれていても、それは変わりなくて。僕の僕という皮が隔たって、いつでも僕という存在を理由付けているんだ。
ふわりと笑う、その顔に何の罪悪感もなく生きていくことが簡単なように。
ただ、僕は僕でいるというだけのことなんだ。
君が好きだといった。きらきらと目を輝かせながら。
僕は悲しかった。
ひどくひどく悲しくて、心臓が痛くなった。
気付かぬうちに泣き出した僕に君まで悲しそうな顔をしている。
あぁ、悪いことをした。そんなつもりじゃなかったのに。
恋、などというものには正直良い想い出がない。
恋というものは世界の終わりだ。
男女であれば、なおさら。そして、そうでなくてもそんなに変わりなく。
名前をつけた時点でそれは終末を運命付けられてしまっている。神様というものがいるのかどうか、見たことがないので何とも言いようがないのだが、もしいるとしたってそんな全知全能の神様も変えようのない事実で、現実で、それこそ神様が運命付けたんだろうといいたくなる人間の浅ましさ。
だから、僕は恋には良い想い出がない。
人は人を好きになるものだ。
でも、それが恋である必要はない。僕はそう思う。
僕だって君が好きだ。
それこそ、失うことに耐えられないくらいに。
「きみの、思いには答えられない。ごめん。」
いつまでもふわふわと浮かんでいたいんだ。
君と僕の関係に名前なんてつけないで欲しいんだ。
ずるくて、きたない欲に塗れた大人になってしまった僕だけど、どうしたって譲れないことなんだよ。どんなに想ってくれたとしても、僕がどんなに想ったとしてもそれは変えてはいけないことなんだよ。だって、僕は大人だから。伊達にそうそう生きてきたわけじゃない。好きだからって一緒にはいられないんだ。だって、いつかはさよならが来る。そんなのには耐えられない。ただ、なんとなく何の名前も付かない二人でいたいんだ。ずるいずるい。僕はずるい。
「それでも、この手をはなしたくない。」
涙のせいで、世界が滲んで君の顔がよく見えない。
ずるい、と呟いたその声だけが妙に頭に響いた。