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あの雲を摑めるかもだなんて、

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ねえ、
知らなかったんよ。
空はこんなにも綺麗なんじゃねぇ。
あの雲を掴めるかも知れん。そう思って。
手を伸ばしたけれど、無理じゃったよ。
ねぇ?
あの白い雲は何処まで行くんじゃろぉね。
「ヒト、」
影が、陽斗の名前を呼んだ。顔をあげると、諒市が陽斗を見下ろしていた。
「さがした」逆光の影が、そう云う。
「‥‥‥うん、」
その表情は見えない。
黒い服。彼には似つかわしくない。ネクタイまできちんと締めて。
「‥‥‥そろそろだけど、」
軽く顔を動かす。陽斗は視線を、彼の肩越しに。
煙。
高い煙突から。
白い、煙。
「‥‥‥どうする?」
訊かれて。
陽斗は煙突の煙を眼で追う。
ほぼ無風の青空に、高く高く昇っていく煙。
‥‥‥ひおり、は?
云いかけて。口を閉じた。
「なに?」
訊き返す諒市の口調はやたらに優しい。
やさしい。
「‥‥‥‥‥‥、うん。‥‥‥ここに、居る」そう答えると。
「そうか、」
頷いて。「なあ、ヒト?」
「なに?」
「大丈夫か」
「‥‥‥なにが?」
「‥‥‥いや、なんでも」
終わったら。また呼びに来るよ。ここに居る?
うん、居るよ。ここに。たぶん。
微笑んでいた。のかも知れない。
「ここに居ろよ、ヒト」
そう念を押すように言い残して。諒市が歩いていく。その背中。
ズボンのポケットに両手を入れ。
背を丸めて。
「‥‥‥、」
陽斗は再び空を見あげる。
不思議そうに。空を。
「‥‥‥ああ、」
そうか。
頬を流れる。コレは。
‥‥‥雨でも降れば、ええのにな、
雨じゃあなかった。
‥‥‥泣いとったんじゃなぁ‥‥‥、
流続ける涙を拭うこともせずに。
陽斗は先程見ていた雲を捜す。
‥‥‥居らんようになったのぉ‥‥‥、
‥‥‥ず、
ハナをすすって。