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逃走兄妹.2

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実際に広々として小綺麗な部屋だった、予想通りラブホだったが仕方がない、そもそも俺の金じゃないし何も言う権利はない
コンビニで更に買い足して貰った替えの簡単な下着類と、普段拠点にしている繁華街の付近の駅のロッカーから回収してきた着替えを用意し、風呂へ入った
この町で人の目から逃げるには普段からの身だしなみをしてなければ異常者としてマークされる、身寄りもなく、身分の証明をできない俺らは警察に声をかけられるだけでも致命傷になりうる

シャワーを止め、風呂に浸かっていると、耳聡い妹、沙耶が声をかけてきた
「おにーちゃん、お母さん…見つかった?」
「まだ、でも絶対にこの街に居るんだ、家も表札も残ってた、もう少し張り込めばすぐに会えるさ」

「その時お兄ちゃんは…お母さんを殺す?」
「…あぁ」

もう俺はあの人を「母」と呼べない
あの恐ろしい、肌が粟立つ冷たい目と、氷のような言葉を聞いてしまったから
「xxx…救急車を呼んで」

俺は隠れて見ていた、父が薬を隠され苦しみながら探すところも、二階にある父の部屋から一階のリビングへ降りる時に突き落とされ二度と動かなくなった、父の最後の姿を
そして、あの人の能面のような無表情を

「さや…ごめんな、きっと俺らはもう幸せになれない」
「気にしないでよ、私はこの生き方を気に入ってるしね、こうやっておにーちゃんと居られて十分幸せだよ、嘘じゃない」
そんなわけあるか、と言いたくなるのをはを食いしばり堪えた、そんな事を言うのは、そんな事を言う権利なんか俺にはなかったから
俺があいつの幸せを捨てさせたのに
あいつの幸せを壊したのに
汚れさせたのは俺のせいなのに
俺はじぃっと心を落ち着かせるしかなかった

風呂から上がって自分の服を着る、バスローブもあるが趣味じゃない、すぐに動ける状態でないと落ち着いて眠れない、これでも充分マシになった方で昔は靴下さえ履いてないと落ち着かなかったものだ

来るまでに着てた汚れきって穴も開けられてしまった服をゴミ箱に突っ込み、ベッドで貸し出し品のカタログを選ぶ沙耶の隣に座る
「いつもありがとうな」
妹のために何も言えなかった俺は、ただ静かに礼を言うしかなかった
「おにーちゃんのその【私がお金持ってる時だけやたら優しくなる】スタンスすごく分かりやすくて好きだよ」
全く通じなかった、思いっきり批判をされてしまった
日頃の行動を少しは改めないとな、間違ってもギャンブルに負けたあげくスリに失敗してリンチされてるようじゃ話にならないし
一日を思い返したらどっと疲れたので、はやめに寝ることにした、ベッドは一つしかないが充分な広さもあるし一緒に寝ても大丈夫だろう
妹の髪を少し乱暴に撫で、軽く抱きしめて押し倒すように布団に入る
んふっ、んふふふ…とくぐもった笑い声が聞こえてきて寝る前だってのに正直気味が悪かった
「なにー?お兄ちゃん私をだく気ぃー?」

こいつの冗談はほんっとうに何も面白くない
作品名:逃走兄妹.2 作家名:伊神片時