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Angel Beats! ~君と~

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第53話 山崎♪冬の雪祭り♪



「雪合戦やるわよ!」

暖房の効いた旧校長室でゆりは高らかに叫んだ。しかし誰一人としてその叫びを聞こうとしなかった。
部屋の中央には接客に使われていたであろう立派な机は除外され、代わりにコタツがある。そこにはダラダラとゲームをしてたいたり、ミカンを食べていたり、寝ていたりとコタツの呪縛に囚われてしまったメンバーが居た。

「こんな寒い日に死ににいくつもりか、ゆりっぺ?」

野田でさえも出ていきたくないこの酷寒。

「そうですよー、しんじゃうよーゆりっぺさーん」

何故雪が降り積もっている中に学校に来られたのかそんなツッコミはしないで頂きたい。
尚、登校しているのはSSSしか居ない。
しかも岩沢が珍しげにギターを握っていない。

「遊佐さんキャラ崩壊してるわよ! しゃんとしなさいっ! しゃんと!」

「もー出たくないよー、一緒に入りましょーよ」

「や、やめろ! 私をこれ以上誘惑するな! コタツから出られなくなるでしょうが!!」

ガシリと横っ腹に抱き付き、コタツの世界へと誘(いざな)おうとする遊佐に対抗する。
ここでやられてはある計画が台無しになってしまう。

「あ、みかん無くなっちゃった。みゆきちダンボール見てきてくんない?」

「しょーがないなー……、無いよ、しおりん」

「マジかい……」

深く空気を吸い、はく。

「そんなんだから太っちゃうんじゃない?」

「んなっ!? 失礼な! あたしゃ断じて太っとらんぞぉ!」

関根はメンバー全員が入ったコタツの中にある自分の横腹を触った。
軟らかい肉、つまり脂肪が少し付いている。サーっと顔が青ざめ、気付かれないように心の中で『運動しよ、冗談抜きで』と、誓い、お茶に手を出した。

「ひさ子、これ食っても良いかな?」

「おまっ、うどんどんだけ食べるつもりだ!?」

「いやー、松下のうどん最高だわ。どんどん食うわ」

岩沢の背後にある大量のビニールが山積みされ、座高とほぼ変わらない高さとなっている。彼女がどれくらい食したのか想像がつく。

「そう言ってくれると作りがいがあるってもんだ、今度持ってきてやろう」

夏休み以来、体型を維持しているものの冬になった季節に松下は顔がふっくらとし、身体は少し脂肪が付いていた。

「おう、頼む」

「うちの岩沢を甘やかさないでくれ!!」

うどんを取り上げ松下に返還させるが、岩沢が非常に残念そうな顔をしコタツに籠った。

「なあ、」

「ん?」

「いつも抱き付いて寝てんのにどうした? 起きて普通に大山の隣に座ってさ」

藤巻は小枝の変わり様に気付いた。
常日頃、見る限りでは時間さえ有れば大山の腕に抱き付いている筈の小枝が大人しく大山と僅かながらにも、間を空け過ごしている。
それは絶対に有り得ない出来事だったのだが、コタツの呪いにハマったメンバーはそんなことどうだって良いじゃないか、と言う雰囲気となり誰も言わなかった。

「え? そ、そうかな?」

その問いに何故か焦り、右手で頬をかいた。

「まあ別に良いけどさあっ!?」

「ミカンをテニスボールにすり替えておいたのさ!! わはははははあ! 貴様のミカンはあたしが貰った!」

藤巻が丹念に手で甘くなるように揉んでいたミカンが関根により奪われる。
先程に運動しようと言っていたのは嘘だったのか。
それを取り返そうと立ち上がるが、関根が仕掛けたミカンの皮トラップに引っ掛かりズッコケ後頭部を強打してしまう…所だったが、御丁寧にも猫クッションが置いてあり、助かった。
それをよそに小枝と大山は間を空けているものの見えない様に、コタツの下で手をしっかり握りあっていた。
大山は極力顔に出さない努力をしているが真っ赤に染まってしまい、隣に居る音無兄妹にバレてしまっている。

「何かヒマだよお兄ちゃん。あそぼあそぼ」

「とは言ってもなぁ……指すまするか?」

「えー? 体動かそうよー。外あんなに雪降ってんだから雪合戦みんなでやろうよ」

雪合戦しよう、その一言で場が一瞬で静寂に包まれた。

「Snow boll fight……」

コタツで寝ていたTKが起き上がり、初音の意見に賛同するかのよう呟く。

「雪合戦、か…それも良いな。この寒さで身体を動かせていなかったからな」

コタツの上でゼンマイ式の子犬を動かしていた椎名も賛同した。

「初音ちゃんにしては良いアイディアじゃん! 良いね、やろやろ!!」

「もー関根さん、それってどういう意味?」

「チミがお利口さんだって言うこと」

関根が初音の頭を撫でる。

「ふっ、この筋肉は雪合戦の為に鍛えてきたものですからね……やりましょう…!」

「ここで動かんかったら漢が廃ってしまうな……」

ゴキゴキ、と腕を回し準備体操で身体を目覚めさせる。
コタツのムードから一変し、メンバー全員が雪合戦のムードになった。ゆりの横腹に引っ付いていた遊佐がいつの間にか離れ、コートと手袋を装着していた。

「お前らさぁ……」

メンバーが寒さ対策に務めている中、ゆりがぼやいた。

「何であたしが『雪合戦やろ』っつってったのに初音ちゃんの一言でやる気が出んの!? 何でや!! キーッ!!」

無駄な地団駄が、誰も居なくなった旧校長室に響き渡るのだった。





















なんやかんやで出た一行はゆりの説明を一通り聞いていた。

「全員集まってるわね、ルールを言うからしっかり頭に叩き込んでちょうだい」

「お前上半身裸になんないのか?」

「何言ってるんです、いくら何でもこの寒い中で筋肉を見せつけませんよ」

「こら、そこ良く聴く! 当たり前だけど絶対石ころをゆき玉の中に入れないこと、グラウンド外にある川の向こう岸に行かない事、これ位かしらね」

この天上学園は都内でもダントツの校庭の広さを誇っている。その中で外周をすればいくら野球部員とは言えどもくたばってしまう。
それがウリの一つでもあった。

「ゆり」

「椎名さん何?」

「クナイを入れては駄目か?」

「ルール違反以前に銃刀法違反になるから止めなさい……って野田君! 雪で棒を包むな!」

「え゛、駄目か!?」

「よしなさい! …まあ、ルールはこんなもんね」

「何だ、意外と普通じゃないかゆりっぺ」

メンバーが思っている事を日向は代弁した。

「日向君……貴方居たのね…」

「居たわ! ユイに十字固めされてたわ部屋の隅で!!」

「あらユイも居たの?」

「何か扱いがヒドくなってません?」

「気にすることはないわ、ユイ。あ、そーそ、後一つあるんだけどね」

「気にするぞ!」

と日向が叫ぶがゆりは無視。
リハビリと言う名のプロレスに付き合わされ、身体中が痛い。痛いと言うことはそれなりにユイの体力が上がってきた事だ。
嬉しい反面、何か違う気がする。

「グラウンドのどっかに何個か落とし穴あるから気を付けてね。しかも、ガン○ムが丸々入る深さだから」

ゆりのついでの一言と笑顔にメンバー全員が冷や汗を流す。

「あら? 何よ堕ちなければ済む話じゃないの」

サラリと言い、

『言い訳あるかあああああああああ!!』

全員(遊佐と初音を除く)が一斉にツッコんだ。
作品名:Angel Beats! ~君と~ 作家名:幻影