夜行譚6-執着ー
別にいつでもいいんだけど、そう、確か月の綺麗な晩だった
月明かりに照らされて、二人の影が長く伸びてたんだ
そう、二人
手を繋いでね、歩いてたんだ
夜の山道をね
小さい方は闇を怖がってさ、ぴいぴい泣いたな
それを大きいほうが宥めすかしてね、手を引いて歩いてた
その横顔がね、月明かりに照らされてさ、よく見えたんだ
なんて言うのかなあ、すごく…見ているとそれだけでおなかがいっぱいになるようなそんな顔をしててさ
そうだ、優しそう、って言うんだよね
優しそう、そうだ、すごく優しそうだったんだ
しばらく気付かれないように後を付けて見てたんだ
でも、向こうはこっちを見ない
当たり前なんだけどね、気付かれないようにしてたんだし
でも、なんかつまんないじゃない?
見てるだけでこんなに満たされた気持ちになれるんだもの
もし、向こうも僕を見てくれたなら、どんなに幸せな気持ちになれるだろう?
でも彼は僕を見ない
小さい方がぴいぴい泣いて彼の気を引いてるからだ
だから彼は小さいのばっかり見て僕のことを見ない
僕だって、彼に見てもらいたい
そう思ったらいてもたってもいられなくなった
欲しい、と思ったんだ
あの笑顔が、優しく手を引いてくれる腕が、彼が、欲しい
だからね、小さいほうを呼んだんだ
彼を手に入れるには、小さいのが邪魔だからね
殺そうかと思ったけど、止めた
それがバレて彼に恨まれては元も子も無いもの
でもさ、ねえ、知ってるでしょ?ここはご禁制の山なんだ
まあ、僕の住処なんだけどさ
村人たちはご禁制とか言って、滅多にやってこない
許可無く立ち入ったやつには罰があるんだ
僕は小さいのをこの山に呼んだ
村人たちはそれを知って小さいのを咎めた
殺すかな、と思ったけどどうやら殺しはしなかったらしい
けれど家族共々村八分だ
その後は知っての通りの大惨事!
時間は少しかかったけど、僕は見事に彼を手に入れた
彼は自分から鬼になって自分から僕の傍にいてくれる
優しく僕を見てくれる!
ね、茨木?手を引いてよ!
今日は月が綺麗だから、少し歩こう?
僕、ずっとこうしたかったんだよ