Savior 第一部 救世主と魔女Ⅳ
船上でマストの下敷きになりそうだったところを庇ったまでは良かったが、燃える炎で姿は見えず、無事を確認しに行く前に船が沈没してしまった。追跡艇に戻る暇はなかったし、十中八九荒れる海に落ちただろう。彼女も運よくボートを見付けられたとは思えないし、例えそうだとしても、無事岸まで辿りつけたかどうか。シリルや悪魔教徒の件がなければ、今すぐ捜しに行きたいのに。けれど、今はそういう訳にはいかない。仕方のないことだが、それをもどかしく思ってしまう。
だが、もっともどかしく思っているのはゼノの方だろう。シリルを助けにきたはずだったのに見つけたのは替え玉で、船の沈没に巻き込まれて海を彷徨い、ようやく辿り着いた場所にシリルいると分かったのに教会に捕まってしまった。シリルの護衛役で実の兄妹のように仲がいいのに、なかなか助けに行けない彼の心境は如何ばかりだろう。それを思うと、勝手なことは言っていられない。
(それにシリルと違って、リゼは俺の助けなんてなくても、一人でなんとかできるだろうからな・・・・・・)
ゼノの背を見ながら、アルベルトはそう考えた。そう、きっと心配する必要はない。少なくとも、リゼは心配なんてしなくていいと言うだろう。今は落ち着いて、シリル救出と悪魔召喚の阻止のことを考えるのだ。
アルベルトは足を速めて、前を行くゼノを追った。道を知っているのは自分なのだから、ゼノを前に行かせてもしょうがない。アルベルトは暗い洞窟内を足早に進むと、呑気に、けれどどこか急いた様子で歩くゼノに並んだ。
その瞬間、再び冷たくからみつくような気配が漂ってきた。
「――魔物の気配だ」
作品名:Savior 第一部 救世主と魔女Ⅳ 作家名:紫苑