霧雨堂の女中(ウェイトレス)
彼はまるで生まれて初めてコーヒーを飲んだかのような、驚きに包まれたばかりの丸い目をしてカップの中を凝視した。
「ほら!私の勝ち!」
人形女子が人形ごと両手を挙げてかっかと笑った。
――でも、え?
と、瞬間私は戸惑いを覚えた。
そのときの彼女の声は、それまでの人形声とはまるで違う少しハスキーで低めなものだったのだ。
こっちが地声なのだろうか?
だとすると、本当に彼女の技術は大したものだとしか言い様がない。
私は感嘆しながら出来上がったハニーマーガリン・トーストをお皿に載せ、目隠し女子の彼女の前にそっと置いた。
目隠し女子は私に向けて丁寧にお辞儀をして、トーストを自分の手前に置き直した。
「マスター、これってコナコーヒー?」
人形女子がそう尋ねた。
マスターは微笑んで首を横に振った。
「産地のハワイは正解ですね。でも、これはカウコーヒーです。彼が紅茶の透明感が好きだって言うならと思い、精一杯の抵抗をさせてもらいました」
「そっかあ」
人形女子はそう言うと頷いて一人納得したようだった。
作品名:霧雨堂の女中(ウェイトレス) 作家名:匿川 名