霧雨堂の女中(ウェイトレス)
そしてそう言うと、なぜか私に頭を軽く下げてきたので、私も会釈を返した。
男はそれに対して、とびっきり邪気がない皺の深い笑みを浮かべつつ、そっと一度ウインクを返してきた。
気がつくと、私もそれで口元に笑みが浮かんでいた。
そして今度こそ男は、パタンと扉を閉ざしてから、夜の街の中へと歩み消えていった。
「――変わった人ですね」
私は素直にそう感想を口にした。
大抵、私は横着な印象がある人は好きじゃないのだけれど、何だかあの人は少し変わって見えた。
『天衣無縫』という言葉が近いのだろうか。
凄く素直で、あるがままで。
作品名:霧雨堂の女中(ウェイトレス) 作家名:匿川 名