霧雨堂の女中(ウェイトレス)
そう言って男はマスターをいたずらっぽく睨み、手に持つ瓶を軽く掲げた。
困ったような顔をしながらも、マスターも同じように瓶を掲げる。
「あやめさん。
すまんが一度、手を叩いてくれんか」
――何を、するつもりなんだろうか?
私はどこか怪訝な気持ちでマスターの方を見た。
マスターはといえば、目を細めて男の方を見ながら、瓶を軽く掲げた姿勢のままだ。
なんとも、嫌な予感をどこか感じつつ、
でも、
私は、
目を閉じ、自分の両手を一度『ぱんっ』と音を立てて、合わせた。
作品名:霧雨堂の女中(ウェイトレス) 作家名:匿川 名