浮かれるのはおよしになって
ジャニーズのCDはクローゼットの奥にしまい込んでね。英語の成績はいつも下から数えて10番目以内の私にとって、英語で歌われた歌の意味なんて全く分からないんだけど。でもね、あなたと一緒に口ずさみたいから。だから最近の私はめっきり洋楽。
あなたがいつも真剣に読んでるから、最近の私はめっきり純文学。
大好きな矢沢あいは本棚の隅に押し詰めてね。国語の成績はいつも真中よりはるかに下の私にとって、難しい漢字も多いけど。でもね、あなたと一緒にお話ししたいから。だから最近の私はめっきり純文学。
あなたがいつも観ているから、最近の私はめっきりサイレント映画。
そんな声も出ないような映画なんかより、私を見てよ。あなたはすっかり私を見なくなってしまった。せめて黙っていよう。そしたら私もあなたにもう一度見て貰えるかもしれない。
そうしてじっとしていたら、あなたの目が私の目を捉えたの。私の胸は高鳴って、あなたの声に全身全霊を傾けたの。聞こえてきたのは「お別れだね」なんていうセンスレスな言葉だったけれど。
あなたがいなくなった私のお部屋。小さな小さなピンクの小部屋。残ったのは興味のない英語のCDと意味の分からないブンガクと、面白さのかけらも見つけられなかったサイレント映画のDVD達。
全部全部燃やしてしまえ。
こんなもの全部全部全部。なんの価値もない。
ねぇ、私ね、さっき失恋しましたのよ。だからね、世間の皆様にお願いがございますの。
クリスマス前だからって浮かれるのはおよしになって。
今から私は、ちぃっとも意味の分からない英語の歌を口ずさみながら、燃えるゴミ用の真っ赤なゴミ袋をコンビニまで買いに行くのです。
作品名:浮かれるのはおよしになって 作家名:有馬音文