桜探し
私が言い終わるか終わらないかの所で、一滴私の頬に落ちてきた。
でも、二人で空を見上げても青空は変わらず。ただ、ちょっとだけ雲が雨雲っぽくなってる。
「天気雨だー」
夜美が見上げながら呟く。強くはならなそうだったけど、敷地内にある休憩室っぽい建物の縁側っぽい場所に避難する。
「怒られたのかな?」
私が笑ってそう言うと、夜美が空を見上げながら言う。
「うーん、天気雨は狐の嫁入りって言うぐらいだから悪い答えじゃないと思うけどー」
どうだろう、夜美らしいポジティブ解釈な気もするけど。私は赤い布が敷かれた、縁側っぽいところに深めに腰掛ける。
夜美は、眼の前に立って庇の向こうを見ている。
私は、背中を向けている夜美の腰の辺りを掴まえて、膝と膝の間に座らせる。ふわふわの髪と、可愛らしい桜の香りに包まれる。
「おっと、びっくりしたー」
と言いつつも、いきなり倒れこんで私に負担をかけないように、上手いこと座り込んで来たので、ある程度予想していたのだと思われる。さすが夜美。
今日は私はジーパン。夜美は少し短めの春物スカートなので、縁側が深めなのもあって無理なく重なって座ることが出来ている。
私は手をそのまま前に回して、夜美を抱きしめつつ、可愛らしい桜の香りの中に顔を埋める。幾つかの花びらはその勢いでハラハラと縁側の上に落ちた。
天気雨の音の静けさの中で、少しの間寄り添った。
その後は、夜美の体に纏わり付いた花びらを一つ一つ取ってあげた。
夜美は座ってからずっと、手持ち無沙汰気に、手は縁側の上に置き、足は縁側の縁でブラブラさせていた。
最後の一つを取ってあげて、それを夜美に伝えると、夜美は立ち上がってこっちを向いた。
「実は彩月の髪にも結構一杯付いているのでした」
そう言いながら、今度は夜美が私の髪についた花びらを取ってくれた。
最後の一つを撮り終わった辺りで、丁度天気雨は収まったようだ。
お狐さまが私達にくれた、気まぐれの時間は終了だ。
「帰ろう、彩月」
夜美がいつもの笑顔を向けながら、私の右手を両手で引っ張りあげる。
「うん、帰ろう」
今年の二人だけの花見は、これで終わり。来年もまた、この場所に二人で桜を観に来よう。
桜達に別れを告げて、オレンジ色に染まり始めた空を眺めながら、二人の影が繋がった姿を見つつ、家路を急いだ。
終
BGM
さくら/ケツメイシ
さくら/capsule
桜の時/aiko
千本桜/黒うさP feat. 初音ミク