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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 8 白と黒の姉妹姫

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 心底うんざりという表情を崩さずにシエルは吐き捨てるようにそう言った。
「ふむ。シエルの本命はオデットであったか。」
「陛下。」
「・・・すまぬ。黙ろう。」
 面白半分に余計なチャチャを入れたテオはアリスに睨まれてシュンと肩を落として口をつぐんだ。。
「まあ、俺は別にオデットの事が嫌いというわけじゃないんだ。アリスアリス言うのだけ直してくれれば、いくらでも仲良くするぜ。可愛い女の子と仲良くするのは俺にとっても望む所だしな。」
「な・・・なななななな仲良くってなんですか!?それに嫌いじゃないって一体どういう意味ですか!!」
 顔を真っ赤にしたオデットがこれでもかというくらい取り乱す。
「別に変な意味じゃないって。オデットは喧嘩を売ってこなきゃ普通に礼儀正しいし好感が持てるっていうだけだ。普通にかわいいと思うし、仲良くしたいと思うのは変なことじゃないだろ。ただ『アリス、アリス』って宗教じみて言っているのはちょっといただけないっていう話だ。」
「私なんて、かわいいわけ、ないじゃないですか!そんなこと言ってまたからかって!」
 そう言って頬を膨らませて俯くオデット。
「え、かわいいだろ。なあアリス。」
「はあ・・・仲良くしろといった途端にこれ。何だかもうバカらしくなってくるわ・・・。」
 そう言ってため息をつくと、アリスはひとつ咳払いをして改まった表情になる。
「仲良くなってくれたところで、二人一緒に南のオリヴィエの所に使者として行ってほしいの。実際に戦っていないとは言ってもこの状態が続けばアミューの国力は落ちるばかりだから、早めに決着を付けたいのよ。その為の文書を持って行ってほしいの。」
「じゃあ、いよいよ戦争をするってことか。」
「そんなお金も命も無駄なことしないわよ。そもそも南には今、エドとクロエ、それにソフィアがいるし、それに加えてランドールさんと母さんもいるからまともにぶつかったって勝てっこないもの。」
「は?・・・なんだって?」
「だから、南にはエド達がいるの。それとバルタザール四天王の二人もね。」
「聞いてないぞ。」
「言ってないもの。」
「儂も聞いておらぬが・・・。」
「言ったらアミサガンの時のように南に潜入しそうだったので言いませんでした。」
「う・・・むぅ」
 言葉でやり込められたテオと違い、シエルは言葉には出さないものの、眉をしかめて視線で不満である意思表示をするが、アリスは涼しい顔でそれをやり過ごす。
「・・・使者なら俺が一人で行けば済むだろ。」
「私はそこまでシエルを信用してないわ。これはロチェスが北の王として正式に南の女王に出すものだからそれ相応の機密が含まれているの。だから実際に書状を持っていくのはオデットで、そのオデットを護るのがシエル。」
「俺がオデットを殺して文書を奪う可能性は考えなくていいのか?」
「好感が持てて普通に可愛いと思っている女の子を手にかけるほどリシエールの騎士は堕ちていないでしょう。機密の保持については信用できないけど、そこについては信用してるわ。」
「食えねえ女だな。」
「お互い様でしょう。本当は逃げられたのに、逃げずにこちらの動向を探っていたんだから。」
「・・・知ってたのか。」
「最初からなんとなくはね。ジュロメでメイから『シエルからこんな報告が上がった』って話を聞いて確信したってところかしら。」
「姐さんが裏切り者かよ・・・。」
「こっちもそれ相応の秘密は話したんだからギブアンドテイクよ。明日の朝には書状を持たせることができると思うから、二人共今夜のうちに旅支度を整えておいてね。国内とは言っても山岳地帯を大きく迂回する必要があるから、馬で2日はかかるからね。」
「あの、アリス。私は馬に乗れないんですけど。」
 北アミューへ来る時もずっとアリスと二人乗りをしてきていたオデットがおずおずと手を挙げるが、アリスの返事は短い一言だけだった。
「シエルの前に乗せてもらいなさい。」
「・・・・・・え?」
「仲良くね。」
 そう言ってニッコリと笑うと、アリスはロチェスを連れて奥に引っ込んでしまった。


「熱気を出さないでください。触れられていないのになんかムワッとします。暑いです。シエルさんのオーラで全身を触られているみたいで気持ち悪いです。」
 馬に乗り、城を出てからこっちオデットは終始こんなことをブツブツと言っている。
「じゃあ歩くか?」
 ブツブツと言われる度にシエルが尋ねるがオデットは決まって首を振った。
「嫌です。疲れるし、書状が届くのがおそくなります。」
「だったら黙って乗ってろ。」
 そんなやりとりをしているうちに日は傾き、そろそろ夜営の準備をする必要が出てくる時間になった。
 シエルは森の中から薪になりそうな気を拾ってきて上手く組み合わせて焚き火を起こし、オデットはその火をつかって簡単な夕食を作る。不満を言う為のネタもなく、それをなだめる必要もない二人は会話らしい会話もなく黙ってそれを食べ、地面に敷いた麻布の上に横になる。
 パチパチと音を立てて燃える焚き火を挟んだ向こう側で目を閉じているシエルの顔を見て、オデットは声を掛けるかどうか一瞬迷ったが、勇気を出して声をかけてみることにした。
「・・・シエルさん、起きてます?」
「寝てる。」
 そう言ってシエルはゴロンと寝返りをうつとオデットに背中を向ける。
「起きてるじゃないですか。」
「横になってるだろ?だから、寝てるってのも嘘じゃない。」
「屁理屈じゃないですか・・・。」
「どんなものでも理屈は理屈だよ。で、何だ?何か用か?」
「私って気持ち悪いですか?」
 唐突に投げかけられた質問に驚いてシエルが身体を起こしてオデットの方を向く。すると、オデットは先程までのシエル同様に背中を焚き火に背を向けて横になっていた。
「・・・アリスも私の事気持ち悪いって思ってるんでしょうか。」
「なんだよ唐突に。別に気持ち悪いなんて言ってないだろ。」
「昨日シエルさんに言われて気がついたんですよ。私ってアリスのことが好きすぎて、アリスアリス言いすぎていたんじゃないかって。で、そんなこと言われ続けていたら、気持ち悪いって思われるんじゃないかって。」
「俺はそんなに長い付き合いじゃないけど、アリスはそういうタイプじゃないだろ。好意を受けて気持ち悪いって思う事はないと思うぜ。心配はするかもしれないけどな。」
「心配?」
「ああ。オデットが今アリスにしているみたいに、俺に対して『シエルシエル』って言ってくるとするだろ。そうなったら俺はお前のことを心配する。」
「『俺みたいな性格の悪い騎士に言い寄るなんてこいつ頭大丈夫か?』ってことですか?」
「おいおい、俺は騎士の中でも性格が良いほうだぞ。まあ、今の俺達の関係を考えればそういう心配もするかもしれないけど、そうじゃなくて『こいつ俺以外に友達いるのか?』って心配になるってことだよ。」
「実際アリス以外にいませんからねえ。」
「そういうことをハッキリ言うな。掛ける言葉に困るだろ。」
「いないものはいないですから。」