天才少女
五
ミヤタがアキに向きなおれば箱から覗く二つの眼球がじっとこちらを見ている。
『お前は余計なことを口にしすぎる』
そう威張りながらミヤタに得意顔で助言をしたタカクラは、ミヤタが今から喉から出そうとしている、この言葉にも同じことを思うのだろうか。
「あなたはそれでいいのか。」
初めは普通の子供だった。それから、ただ人より優れた能力を持ったために、このように生きながらえさせられている。
まだ、頭の中身とほかの体がくっついていた時の不慮の事故。あれは本当に不慮の事故だったのか。しかし、アキが『どのような事故が起こり、意識不明になった』のか、この詳細はどの情報媒体にも載っていなかった。アキが行きつけの大学病院から薬品を持ち出した記録があるということをミヤタは同業者の噂ではあるが聞いたことがある。
それが何を意味するのか、ミヤタは想像するしかできない。
『もう、どうしようもない。』
そう帰ってきた返答は、そっけなく、冷たく言い放たれた。
どうしようもない。確かにミヤタがここにきている時点でもうどうしようもないところまで、世の中は動いているのかもしれなかった。
『外は暑いですか。』
アキからの質問にミヤタは、いいや、と一言否定した。
ミヤタはカバンからボイスレコーダーとメモ帳を取り出し、表情の見せない少女に話しかけた。
「それでは、一週間後に一般販売される『脳保存機』についてのどう思われますか?」