萌葱色に染まった心 2
第一章 放浪野郎と孤独な少女
少女は今、追われていた。息が切れようと、足が重たくなろうと、逃げなくては生きられない。立ち止まったときは恐らく死ぬとき。底知れぬ恐怖を背中に感じ、彼女らは無我夢中で駆けていく。
幾つの路地を曲がっただろうか。人影もなく、そこはひっそりとした裏路地だった。後をついてくる気配はなくなった。ホッと息をつきたいところだが、なぜだか安心できなかった。
嫌な予感がする。言いようもない不安感に襲われたその時、背後に生き物の気配を感じた。何かがそこにいる。まるで蛇に睨まれた蛙のように少女は動くことができなかった。
いくら経っても襲われることはなかった。まだ、何かがいるような気がするが、もしかしたらそれは気のせいかもしれない。
少女は大きく息をつくと、ゆっくりと振り返った。
「バカめ、振り返らなければいいものを」
闇の中で男が言った。暗くて顔も何も見えないが、確かにそこにいる。少女がそのことを理解したとき、鈍い痛みが走った。鮮血が吹き出す。痛みは一瞬だった。熱い。すぐに痛さが熱さに変わる。傷口がたまらなく熱かった。額から汗が噴き出していく。
不思議と恐怖心が薄れていく。意識は朦朧とし、気分はだんだんと高まっていった。心地いいその感じに身をゆだねながら、少女はもうどうでもいいと思った。それが、彼女に考えることのできた最後のことだった。
大地に少女の体が横たわった。口許から血が流れ、大きく開いたままの瞳は光を失い、ただ虚ろだった。心臓の鼓動は止まり、もちろん呼吸もしていない。首は不自然な方向に曲がっていた。
男は少女の体を起こすと、大きく口を開いて首もとに噛みついた。そのまま一気に食いちぎる。大量の血液が大地を赤く染めた。まるでワインかトマトジュースでも飲むように男はその血を吸うと、次は少女の掌に手を伸ばす。左手で手首を押さえると、無造作に右手で指をへし折って引きちぎった。それを口に運んだ。
バリッボリッバリッ……
男はまるで沢庵でも食べるようにそれを食べていた。ゆっくり味わうように一つずつ口に運んでいく。男は少女の上体を抱き起こすと、大きな口を開け、頭からかぶりついた。
少女は今、追われていた。息が切れようと、足が重たくなろうと、逃げなくては生きられない。立ち止まったときは恐らく死ぬとき。底知れぬ恐怖を背中に感じ、彼女らは無我夢中で駆けていく。
幾つの路地を曲がっただろうか。人影もなく、そこはひっそりとした裏路地だった。後をついてくる気配はなくなった。ホッと息をつきたいところだが、なぜだか安心できなかった。
嫌な予感がする。言いようもない不安感に襲われたその時、背後に生き物の気配を感じた。何かがそこにいる。まるで蛇に睨まれた蛙のように少女は動くことができなかった。
いくら経っても襲われることはなかった。まだ、何かがいるような気がするが、もしかしたらそれは気のせいかもしれない。
少女は大きく息をつくと、ゆっくりと振り返った。
「バカめ、振り返らなければいいものを」
闇の中で男が言った。暗くて顔も何も見えないが、確かにそこにいる。少女がそのことを理解したとき、鈍い痛みが走った。鮮血が吹き出す。痛みは一瞬だった。熱い。すぐに痛さが熱さに変わる。傷口がたまらなく熱かった。額から汗が噴き出していく。
不思議と恐怖心が薄れていく。意識は朦朧とし、気分はだんだんと高まっていった。心地いいその感じに身をゆだねながら、少女はもうどうでもいいと思った。それが、彼女に考えることのできた最後のことだった。
大地に少女の体が横たわった。口許から血が流れ、大きく開いたままの瞳は光を失い、ただ虚ろだった。心臓の鼓動は止まり、もちろん呼吸もしていない。首は不自然な方向に曲がっていた。
男は少女の体を起こすと、大きく口を開いて首もとに噛みついた。そのまま一気に食いちぎる。大量の血液が大地を赤く染めた。まるでワインかトマトジュースでも飲むように男はその血を吸うと、次は少女の掌に手を伸ばす。左手で手首を押さえると、無造作に右手で指をへし折って引きちぎった。それを口に運んだ。
バリッボリッバリッ……
男はまるで沢庵でも食べるようにそれを食べていた。ゆっくり味わうように一つずつ口に運んでいく。男は少女の上体を抱き起こすと、大きな口を開け、頭からかぶりついた。
作品名:萌葱色に染まった心 2 作家名:西陸黒船