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バレッタ

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陽射しが柔らかく暖かい。季節は もう心地よい陽気の頃に変わっていた。
ボクは、私物の郵便物をポストに投函した帰り、道を変えて散歩した。
独書室の窓越しに見る空やカーテンの間から差し込む陽射しじゃなく360度の視界と空気がボクを包み込んでいる。
そんな中で キミのことを想い浮かべているボクが居る。

そういえば、こんな日だったかな。キミに誘われて図書館に行ったね。
モンシロ蝶がボクとキミをくっつけたいのか ヤキモチを妬いているのか、ずっと傍を飛び回っていたね。キミは,少しヒールの高いパンプスを履いていて ひらひらとスカートを揺らして、まるで蝶のような足取りだったね。
想いだすと ボクの口角は上がって頬骨辺りが攣ってくるようだ。ボクはだらしなく にんまりしていないだろうか。ボクは、眼球だけ動かして周りを窺った。

今頃キミは何をしているのかな

街の風景を何となく視界に留めながら キミの姿ばかり考えて歩いていると、少し前の路地から女の子が ボクの前に出てきた。
キミと同じくらいかな。少し年下かもしれないな。その後ろ姿を見つめていた。
女の子への興味もないわけではないけれど、その後ろ姿の子の髪を留めていた髪飾りに視線がいった。
陽射しに照らされた髪は、艶々と輝いて 柔らかなややブラウンの髪色は服装と似合って見えた。その髪の一部を纏め留めている髪留めは彩色された透明のビーズが並んでいる飾りが施されているのか煌めいていた。綺麗だな…… 単純にそう感じた。

キミはどんな髪型をしていたっけ

たしか、肩よりも少し長めの黒髪で 毛先が くるんと軽くカールしていて弾んでいた。
いや、待てよ。
この前会ったときは、まっすぐに伸びていたようだったな。色も違っていたかもしれない。
女の子って よく髪型を変えるから思いだすのに 苦労する。

距離をおいて前を歩いていた女の子は、次の角で曲がっていった。
ボクは そのまま直進して その道を通り過ぎた。数件店が並んでいるそのひとつに見覚えがあった。
「あ、此処……」
今は、電飾もなければ 道路に面した大きな一枚硝子に描かれたエンジェルの絵もない。
でもキミと訪れたファンシーショップに間違いない。そう銀色のサッシに填まった硝子の扉がこの店の出入り口だ。
店内は、壁がパステルの色使いで、やっぱり男一人で立ち寄るには照れくささを感じた。
(取材、取材、取材… そうだ、こういうことあったじゃないか)などと意味もない理由を頭の中で作り上げて 店の中に入って行った。
えっと… どの辺りかなぁと ボクは、可愛らしく綺麗な商品の中を見て回った。付近で陳列を直していた店の女の人に声を掛けられた。
「いらっしゃいませ。何をお探しですか?」
「あ、いや、あ、えっと、女の子が髪の毛を留めるヤツって何処にありますか?」
「バレッタですね。はいこちらに」
手を止め 親切にその場所まで案内してくれた女性も綺麗な髪留めをつけていた。
作品名:バレッタ 作家名:甜茶