森の少女
人生に疲れた。
ここで幕を閉じよう。
森は人を拒むように足場は悪い。息が上がる。死んではだめだと言わんばかりに森は深い。キラキラと湖面を光らせる太陽。切り株に腰かけ、ため息一つ。
歩き疲れてしまったのか、ウトウトとし始めた時、
「おじさん。どうしたの」
少女の声だ。この場所にふさわしくない白いワンピースを着た少女。
「一休みをしているんだよ」
まさか自殺をしようとしてるのだとは言えない。
「そっかあ。私はお父さんとお母さんを待ってるの」と言う。
どうでもよかった。これから命を終えようする者にとって。
「おじさん。なんか元気ないね」
と小さな顔を覗かせる。
「ああ・・・そうだね。疲れたね」
「そっかあ」と何やら、少女の持つポシェットをゴソゴソとし始める。
「はい。おじさん」と差し出したのは小さな飴だった。
「疲れた時は甘いものを食べると元気になるってお母さんが言ってたんだよ」とニコニコした顔で言う。
「ありがとうね」
飴を頬張り少女に微笑みかける。人に優しくされたのは久々だ。目頭が熱くなる。
「でもね。おじさんのはその疲れじゃないんだよ。仕事でね、いろいろあったんだよ」
少女に言っても仕方がない。でも誰かに聞いてほしかったのかもしれない。目頭を熱くした目からは涙がこぼれた。
すると少女が急に抱きつきてきた。温かい。そのぬくもりはまるで聖母の様に。
「ど、どうしたんだい」慌ててそう言うとクリクリとした目がこちらを覗き、
「お仕事で疲れた時に私を抱くと疲れがとれるってお父さんが言ってたんだよ」
と無邪気にころころと笑う。
「そっかあ」
少女を強く抱きしめ返した。僕は目を閉じた。
いつの間にか寝てしまっていたのだろう。気づいた時にはもう少女の姿はなかった。
そして、僕は力強く、森の外に出た。