小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
水木 誠治
水木 誠治
novelistID. 51253
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

理由なき殺人

INDEX|8ページ/9ページ|

次のページ前のページ
 

6.怖ろしい生き物



 白いガードレールが、血液のような赤に染められていた。
 数台のパトカーと一台の車が、ガードレールの前に止められている。パトカーは警戒心を煽る赤色灯を回転させているが、このあたりには警察以外、誰もいない。その虚しさはサイレンが鳴っていないため、さらに倍増していた。
 深山はガードレールに腰掛け、落ち着かなさそうに片足を踏みならしていたが、林の薄闇から溝上が出てくるのを見つけると、主人の帰りを待つ犬のように彼のもとに駆けつけた。
「……どうでした?」
 溝上は白い手袋を外しながら、悔しそうに首を振った。
「遅かった。手遅れだったよ」
「そうですか……」
「脱走者はいまだ逃走中。そう本部に連絡してくれ」
 溝上は手近な制服警官を捕まえて、そう伝えた。
 目頭を指で押さえる溝上に、深山がタバコを差し出しながら言った。
「しかし怖ろしい女ですね」
「いつの時代も女は怖ろしい生き物だよ」
 溝上はタバコをうまそうに吸い込んだ。
 深山が助手席のドアを開いて、溝上を招き入れる。軽く頭を下げて溝上は車内に乗り込んだ。
 深山が運転席に座り、シートベルトを胴体にくくりつけながら溜息を吐く。
「まったく……おそろしくタチの悪い異常者っすね。自分に特殊な能力があると信じ切っているんですから……」
「ああ……」
 溝上は疲れ切ったように頷いた。「思いこみというやつは、本当におそろしい」


 ひとけのない波止場で、翔子は車を止めた。
 たゆんだ海が闇を飲み込み、目の前に広がっている。波の音だけの世界、光のない世界、そして人のない世界。
 車を降りると、心地よい潮風が髪をなびかせて通り去った。
 やはり人混みは苦手だ。雑踏にまみれると、あの声が聞こえてくるから。聞きたくもない醜い声が、わたしを苛むから。
 翔子は長い髪を掻き上げた。ぬめりとした感触があった。手のひらを見ると、指先に乾ききっていない血が付着していた。それを見て、ついさっき自分が人を殺したのだと思い出す。
 とりあえず、逃げなければ……。
 何も刺激のない、あの狭い部屋には、もう、戻りたくない。
 逃げなきゃ。


作品名:理由なき殺人 作家名:水木 誠治